研究課題
がん細胞は解糖経路を亢進し、がん特有の糖代謝(Warburg効果)とともに自食作用(オートファジー)によりエネルギーを獲得することで悪性形質を発現・維持している。本研究は大腸がんを対象に、GSK3βのがん促進作用に着目し、解糖系の亢進により過剰となる乳酸が大腸がん細胞のオートファジーを駆動することでがんの増殖や悪性化を促進しているのかを解明する。そして、がん細胞における解糖系亢進と細胞の生存を支えるオートファジーの両者を一連の経路として認識し、GSK3β阻害によるがん治療作用をがん細胞の栄養獲得機構の視点から解明する。これにより、がんの代謝病態をより広く理解し、がん代謝の是正が新たな治療標的になりうるかを検討する。本年度は、大腸がん培養細胞(SW480, HCT116, LoVo)と正常大腸上皮細胞(CCD 841 CoN)について乳酸産生やオートファジー関連分子の発現を定量的RT-PCRにより測定、比較した。その結果、大腸がん細胞では正常大腸細胞と比較してピルビン酸から乳酸に変換するLDHAの発現およびオートファゴソームの形成に必須なAtg12の発現が亢進していることを見出した。これらの発現プロファイルは、TCGAデータベースにおけるヒト大腸がん組織の遺伝子発現パターンと結果が一致した。また、大腸がん細胞でのLDHAとAtg12の発現は、GSK3β活性阻害により減弱できることを新たに見出した。乳酸産生・分泌に対するGSK3βの機能を詳細に解明するため、活性型GSK3βの発現プラスミドを作成し、安定発現株のスクリーニングに着手した。
2: おおむね順調に進展している
おおむね当初の予定通りに研究が進んでいる。
最終年度は、活性型GSK3βの強制発現細胞を作成し、GSK3β阻害剤やRNA干渉によって得られたこれまでの結果と比較する。また、がん代謝の是正による治療法開発に向けて、 GSK3β阻害剤とオートファジー阻害剤の併用による細胞増殖に対する抑制効果を検討する。
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すべて 雑誌論文 (3件) (うち査読あり 3件、 オープンアクセス 3件) 学会発表 (5件)
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