研究実績の概要 |
我々は複数のがん種で高発現や高活性化を示すGSK(glycogen synthase kinase)3βのがん促進作用を発見し、その阻害による治療効果を実験的に示してきた。本研究では、GSK3βが解糖系を亢進することでの乳酸産生を増加し、この乳酸を利用して大腸がん細胞がオートファジーを駆動することでがんの増殖や悪性化を促進しているのかを明らかにするため、GSK3β誘導性の糖代謝特性に着目して解析する。そして、がん細胞における解糖系亢進と細胞の生存を支えるオートファジーの両者を一連の経路として認識し、GSK3β阻害によるがん抑制効果をがん細胞の栄養獲得機構の視点から解明する。本年度は下記の研究計画を実施した。 (1) 大腸がん細胞におけるGSK3βとオートファジー関連分子の発現解析 大腸がん細胞株(SW480, HCT116, LoVo)に恒常的活性型GSK3βを強制発現させたところ、オートファジー関連マーカーであるLC3B-IIが増加した。これまでの結果から、RNA干渉や阻害剤でGSK3βを抑制すると、オートファジー関連分子の発現が低下することが示されており、本解析から、GSK3βによる関連分子の発現調節を介して、オートファジー活性が制御されていることが明らかになった。 (2) GSK3β阻害剤とオートファジー阻害剤の併用による細胞増殖に対する抑制効果と分子機構の解析 大腸がん細胞株SW480とHCT116に対して、GSK3β阻害剤とオートファジー阻害剤ヒドロキシクロロキンを併用することにより、細胞増殖を相乗的に抑制できることを見出した。GSK3βを抑制することにより、がん細胞の乳酸産生が減少したことから、シグナル伝達経路をオートファジー阻害剤で抑制することに加え、乳酸を介したオートファジーをGSK3β阻害剤により抑えることで、効率的ながん治療効果を期待できることが示唆された。
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