研究代表者は希少な小児がんの一種である神経芽腫に対する新規治療法の研究開発に取り組んできた。神経芽腫の中でも難治性で知られるMYCN遺伝子増幅型の神経芽腫細胞の増殖を特異的に抑制する薬剤の発見が最終目標である。独自の遺伝子ノックダウンスクリーニングの結果と既報の研究結果から、がん細胞がDNA複製を行うために必須となるデオキシチミジン三リン酸(dTTP)の生合成経路に関与する遺伝子群が有望な治療標的分子となり得ることを見出していた。 dTTP生合成経路に関与する酵素群のうち、チミジル酸シンターゼ(TS)やジヒドロ葉酸レダクターゼ(DHFR)を標的とする代謝拮抗剤は大腸がんなどの成人がんに対する治療薬として古くから使用されている。その一方で、神経芽腫における有効性はこれまで十分に検証されていなかった。本研究により、既存の代謝拮抗剤がMYCN遺伝子増幅型の神経芽腫細胞株に対して特異的に作用して細胞増殖を抑制することが明らかとなった。分子メカニズムに関しては、一般に代謝拮抗剤の耐性化につながるとされる酵素(TS、DHFRなどの標的分子)や薬剤トランスポーターの発現量に有意な差は認められなかった。従って代謝拮抗剤がMYCN遺伝子増幅型の神経芽腫細胞に作用するメカニズムは従来のものとは大きく異なることが明らかとなった。 また、高次の薬効評価系として超免疫不全マウスを用いた患者由来腫瘍異種移植(PDX)モデルの作成と維持に取り組んできた。最終年度までに8系統の樹立に成功した(うち、MYCN遺伝子増幅型が1系統)。これらの貴重なPDXモデルを用いた代謝拮抗剤の治療コンセプト実証を目指して予備試験を継続中である。
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