本研究課題では,慢性感染や抗腫瘍免疫応答で問題となるT細胞疲弊化の機序を解明することにより新規治療法開発に資するという最終目標の下,疲弊化T細胞で高発現する転写因子Eomesodermin(Eomes)がどのようにT細胞疲弊化に関与しているかを解析してきた。具体的にはEomesmをT細胞に常に高発現させるようなトランスジェニックマウス(Eomes-Tg)を作成し,そのT細胞の状態や機能性を野生型マウスのT細胞と比較することにより検討した。その結果,昨年度までに,Eomes-TgのT細胞において,① PD-1やTIM-3などの疲弊化マーカーの発現上昇,② IL-7R/CD127やBcl-2の発現低下とそれに伴う細胞死の亢進が誘導されることが示唆された。さらにEomes-TgをTCR-Tgと交配することにより,単一のTg-TCRを発現し抗原刺激を受けない細胞群と,多様なTCR発現細胞を含み抗原刺激を受ける細胞を含む細胞群に分けて解析したところ,EomesはT細胞疲弊化マーカーや活性化マーカーの発現調節において,抗原刺激の効果を増幅するケースと,抗原刺激に非依存的に単独で活性を示すケースが見られることが示された。さらに本年度では,抗原刺激を受けたことがないナイーブT細胞の抗原刺激後の増殖反応をEomes-Tgと野生型マウスとで比較したところ,Eomes-TgのT細胞では有意に反応性が低下するという結果が得られ,疲弊化したT細胞内に発現するEomesはT細胞疲弊化の原因分子として重要な役割を果たしていることが示唆された。また,Eomes-TgのT細胞では,T細胞疲弊化に関与していることが示唆されているマイクロRNA,miR-31の発現が上昇していたことから,EomesはmiR-31の発現誘導を介してT細胞疲弊化に寄与している可能性が示唆された。
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