研究課題
本研究では、臨床試験で採取した検体を用いて、がん抗原特異的な細胞傷害性CD8+ T細胞(CTL)の質的・機能的な評価を行い、がん免疫療法を発展させる知見を得ることが目標である。ゲムシタビン併用WT1がんワクチン療法を受けた進行膵癌患者の血液サンプルを用いてWT1特異的CTL1細胞当りの網羅的遺伝子発現解析を行った。採取可能な細胞数が極めて少ないことと凍結解凍によるサンプルの品質低下が予測され、実施に先立ち様々な実験条件を検討した。WT1特異的CTL誘導が顕著且つ良好な臨床経過をとった一症例の血液サンプルを用い、WT1-tetramer陽性CTL(約540個)と対照となるWT1-tetramer陰性CTL(約4500個)のsingle cell RNA-seqによる網羅的遺伝子発現解析とT細胞受容体(TCR)レパトワ解析を同時に行った。その結果、Granzymeなどが高発現しているクラスターやミトコンドリア関連遺伝子が高発現しているクラスターなど遺伝子発現パターンによって、7つのクラスターに分類できた。今後、各解析細胞についてTCRクローナリティーと遺伝子発現を関連付けた解析を進める予定である。関連研究として、HLA class I分子拘束性WT1ペプチド特異的TCRとHLA class II分子拘束性WT1ペプチド特異的TCRのfunctional avidityをそれぞれ評価できるplatform細胞の作製を試みた。解析終了した次の結果を論文投稿中である。1つは、WT1がんワクチン投与を受けた進行卵巣癌患者でWT1特異的CTLとWT1ペプチド抗体の誘導が臨床効果に関連することを明らかにした。1つは、進行肺癌患者にTLR9アゴニストのCpG-ODN(K3)免疫アジュバントを投与するとTh1型の免疫誘導が促進され、CD8陽性T細胞の分化・活性化が得られる可能性を示した。
3: やや遅れている
WT1特異的CTLを用いたSingle cell RNAseqの条件設定にやや時間を要して遅延している。今回行った結果を踏まえて次年度の解析に修正・応用する。
網羅的遺伝子発現解析の結果を詳細に解釈して今後の研究開発の方向性を定め、計画した研究を遂行する。その他、本研究課題の土台となっている進行膵癌に対するゲムシタビン併用WT1がんワクチン療法の他、WT1がんワクチン療法に関連した臨床研究の後方視的解析も進め、基盤的研究結果との関連性を明確にしていく予定である。
Covid-19の流行により予定していた情報収集等の出張がなくなったため。次年度の計画に移行させて出張費や消耗品等に充てる計画である。
すべて 2021
すべて 雑誌論文 (1件) (うち査読あり 1件)
Cancer Immunol Immunother.
巻: 70 ページ: 253-263
10.1007/s00262-020-02675-9