研究課題
本研究では、がんゲノム医療に不可欠な「患者さんの腫瘍の遺伝子を、必要時に繰り返し入手する方法」を確立するための基礎技術検討を行っている。遺伝子の入手に血中循環腫瘍細胞(CTC)を利用できるよう、その捕捉には筆者らが既に開発したマイクロ流体デバイス“ポリマーCTCチップ”を使用する。捕捉した細胞はゲルに包埋された状態で取り扱えるようにし、全ての細胞を確実に、またシングルセルでも回収できる手法を検討している。遺伝子変異が既知の癌細胞株を用い、捕捉、回収、遺伝子解析の一連のプロセスを検証し、ゲル材料、ゲル化条件、遺伝子解析プロトコール(シングルセルも含む)等を最適化することを目指している。2019年度は、ポリマーCTCチップ上に捕捉した細胞を、高分子ゲルにより回収するための技術を検討した。温度や塩濃度等の変化によるゾル・ゲル転移を利用でき、後の遺伝子解析に影響しない高分子系を探索し、次の結果を得た。(1)様々な天然高分子・合成高分子水溶液系のゲル化について検討し、アガロース系、アルギン酸系など幾つかの有望なを候補を見出した。(2)それらの中で、分子量のコントロールにより細胞を取り扱うのに適当な転移温度を有し、流動状態でチップに流し込んだのちゲル状態にできる系を見い出した。(3)チップからのゲル回収においては、低分子量化によりゲル強度が低下する結果、ゲルの破壊が発生して回収が困難となることが分かった。(4)このようなゲル強度低下の問題解決を試み、転移温度をほとんど変えずにゲル強度を上げることができる添加成分を見出し、チップに充填されたゲル全体を回収できる目処を得た。
2: おおむね順調に進展している
チップに捕捉された細胞の回収について目処を得て、次の遺伝子解析に進むためのベースができた。
遺伝子変異が既知の細胞株を使用し、前記技術により実際にチップ捕捉・回収した細胞について、シングルセルを含めた遺伝子解析を試みる。
予定していたCTC捕捉システムの導入において、費用を当初の見込みよりも低く抑えることができたため。次年度使用額は、本装置の改良や消耗品購入に使用する。
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ONCOLOGY LETTERS
巻: 19 ページ: 2286-2294
10.3892/ol.2020.11335
巻: 18 ページ: 6397-6404
10.3892/ol.2019.11047