研究課題/領域番号 |
19K07748
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研究機関 | 弘前大学 |
研究代表者 |
堀江 香代 弘前大学, 保健学研究科, 助教 (30626825)
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研究分担者 |
渡邉 純 弘前大学, 保健学研究科, 教授 (10201188)
下田 浩 弘前大学, 医学研究科, 教授 (20274748)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | エクソソーム / マイクロRNA / 卵巣癌 / 腹水 |
研究実績の概要 |
2019年度の計画である「卵巣癌患者腹水中のエクソソーム内在miR574-3P定量ならびに、患者の臨床情報と関連した解析を行い腫瘍マーカーおよび予後・予知因子となる可能性を明らかにする。」に基づき卵巣癌患者由来の腹水からのエクソソームの回収条件および内在するmiRNA抽出条件の検討を行った。まず使用サンプル量の検討として、10mL、5mLの腹水サンプルを用い、Exo Easy Maxi kit(QIAGEN)を使用して細胞外小胞を回収した後、NanoSighatシステム(日本カンタムデザイン)による粒子径および粒子濃度を解析した。回収した小胞はエクソソームタンパク質マーカーであるCD63、CD9抗体を用いたウエスタンブロットによる評価を行い、エクソソームであることを確認した。次にエクソソーム内在miRNAの抽出試薬の検討を行った。方法としては回収したエクソソームは既存のキット試薬2種①グアニジンイソチオシアネート・βメルカプトエタノール液および②グアニジンイソチオシアネート・フェノール、クロロホルムを用い、exosome RNeasy Micro kit(QIAGEN)による内在miRNAの抽出を行った。さらに、抽出したmiRNAの量・質の評価にはバイオアナライザー(Agilent)を用いて行った。その結果、解析に用いるサンプル量については10mL、5mLいずれも直径100-300nmの小胞が検出されたが10mLサンプルを用いた方が直径100nm程度のエクソソームと思われる小胞が効率よく回収されていることを確認した。また、miRNAの抽出液の検討ではグアニジンイソチオシアネート・βメルカプトエタノール液を用いた方がmiRNAの回収率が良いことが確認された。本検討の結果より腹水由来エクソソームの回収条件および内在するmiRNA抽出条件が確立された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
2019年度の計画「卵巣癌患者腹水を用いたmiR574-3Pバイオマーカー及び予後・予知因子の解析」はやや遅れている。その理由として、現在のところ腹水中のエクソソーム解析はほとんど行われておらず、腹水からのエクソソームの回収条件や内在するmiRNAの抽出条件などを詳細に検討する必要があり、条件検討に時間がかかってしまった。また臨床材料である患者腹水は個体差が大きく回収されるエクソソームの量や質にも大きなバラツキが予想される。個体差を比較するために、腹水サンプル回収時に得られた沈査(細胞成分)についても有核細胞数の測定やサイトスピン標本による癌細胞量の測定なども同時に行っている。 これらの結果を踏まえて、腹水中の細胞数と回収されたエクソソーム量や内在miRNA量などの検討を行う予定である。また卵巣癌細胞培養上清を用いたマイクロアレイ解析で癌細胞で共通に高発現を示したmiR574-3Pをターゲットとして腹水中の解析を進める予定であるが、卵巣癌細胞培養上清を用いた予備実験においてエクソソームに内在しているmiR574-3Pの発現量が低く、コントロールとの比較が正確に行われなかった。現在、微量なmiRNA測定のために高感度DropletDigital PCR (ddPCR)による解析を行うことを考慮し条件検討を行っている。検討内容としてはまずmiR574-3Pおよび内因性コントロールであるU6を用いたddPCRの反応条件、アニーリング温度の検討を行った。しかしながらいずれも発現量が微量なため十分に検出されず条件検討が行えなかった。今後はサンプルの濃縮方法など十分なエクソソームやmiRNAが回収できるようなサンプル条件を確立していく予定である。
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今後の研究の推進方策 |
1.卵巣癌患者腹水を用いたリアルタイムPCRやddPCRによるmiRNA解析条件の最適化を行いmiR-574-3Pのバイオマーカーとしての意義を検討する。内容としては①患者腹水中のmiR-574-3PについてRealtime PCRやddPCRを用いた定量 ②癌細胞有無との比較 ③病期との関連の比較 を行う。以上の結果よりmiR574-3Pが卵巣癌の予後因子となる可能性を検討する。なお、予測される結果としては腹水中に癌細胞が存在する方がmiR-574-3の発現が増加する。また、stageが上がるにつれmiR574-3P発現が増加するなどが考えられる。 2.抗がん剤や化学療法を行った患者腹水中のmiR574-3Pを測定し、その発現動態を検討し治療効果の予知因子となる可能性を検証する。なお、予測される結果としては完全緩解(CR)の患者ではmiR-574-3P発現が低下することが考えられる。 3.卵巣癌細胞株と腹膜を構成する中皮細胞株を対象としてmiR574-3P抑制エクソソームの影響を明らかにする。この結果から卵巣癌細胞の細胞増殖抑制や浸潤能の減少が確認されれば、miR574-3P抑制エクソソームはオートクライン型の増殖・浸潤抑制因子として作用することが示唆される。また、中皮細胞の増殖やアポトーシス減少が認められれば腹膜を構成している中皮細胞の減少が抑えられることで腹膜の隙間がなくなり、腫瘍細胞の浸潤を防ぐ。という新規の卵巣癌浸潤抑制機構が示唆される。
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次年度使用額が生じた理由 |
【理由】腹水からのエクソソーム回収や内在miRNA抽出の検討に時間がかかり、2019年度予定であった「卵巣癌患者腹水中のエクソソーム内在miR574-3P定量」に着手できず、miR574-3P定量に関するリアルタイムPCRやddPCR用の試薬や消耗品を購入しなかったため。 【使用計画】本年度の差額は2019年度予定であった「卵巣癌患者腹水中のエクソソーム内在miR574-3P定量」を引き続き行うために試薬購入や解析装置の使用料として使用する。また次年度計画予定の「卵巣癌細胞株と腹膜を構成する中皮細胞株を対象としたmiR574-3P抑制エクソソームの影響」を明らかにするための試薬や消耗品購入のために使用する。
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