研究課題/領域番号 |
19K07758
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研究機関 | 慶應義塾大学 |
研究代表者 |
塚本 信夫 慶應義塾大学, 医学部(信濃町), 助教 (20407117)
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研究分担者 |
河上 裕 慶應義塾大学, 医学部(信濃町), 特任教授 (50161287)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2024-03-31
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キーワード | 腫瘍免疫 / がん免疫療法 / 代謝 |
研究実績の概要 |
我々はこれまでに、抗腫瘍免疫を増強させる効果をもつ化合物のひとつとしてberberine (BBR)を同定した。CT26を移植したBalb/cマウスにBBRを投与するとCD8+ T細胞依存的に腫瘍増殖が抑制された。腫瘍増殖の抑制機構を明らかにする努力の結果、BBR投与によってCD8+ T細胞においてT細胞の細胞死が抑制されること、腫瘍中の抗原特異的CD8+ T細胞の疲弊状態が緩和されることなどが明らかになってきた。腫瘍内CD8+ T細胞の集団として互いに抑制しあう2つのシグナルが同時に活性化していること、それぞれのシグナルの下流で起こると考えられる遺伝子の発現上昇が同時に起こっていることから、これらが同じ細胞で起きているのか異なる集団で起きているのか明らかにする必要が生じた。2つのシグナルのうち一方の活性化をその分子のリン酸化抗体で、他方の活性化を下流分子のリン酸化抗体で検出する系を作成し、フローサイトメーターで各細胞での両活性化程度を測定したところ、同一細胞で両方が活性化し得ることが示された。またそれぞれのシグナルの下流で起こると考えられる遺伝子の発現上昇が同時に起こっている現象について研究を進めるなかで、その分子機構の一部を明らかにできた。BBR投与により腫瘍、リンパ節、脾臓内のCD8+ T細胞において発現が上昇する2つの酵素をクローニングし、腫瘍あるいはリンパ節から単離したCD8+ T細胞に強制発現させたところ、いずれの強制発現でも2つのシグナルの下流遺伝子の発現誘導がおこることが示された。2つの酵素のうち1つは野生型遺伝子の強制発現では2つのシグナルの下流遺伝子の発現誘導の程度が弱いが、酵素内に存在する翻訳後修飾部位をアミノ酸変異で模擬して強制発現させたところ、発現誘導が増強でき、BBR投与による抗腫瘍免疫の増強の分子機構として翻訳後修飾が関与することが示唆された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
本研究の中で大切な位置を占めるCD8+ T細胞でのsingle cell発現解析を金沢大学の協力のもと試みたが、手技的な問題等により結果が得られていない。引き続き、single cell発現解析を試みて、BBR投与により見られた現象の背景にある機構を明らかにしたい。
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今後の研究の推進方策 |
CD8+ T細胞でのsingle cell発現解析を行い、互いに抑制しあう2つのシグナルが同時に活性化する分子機構の手がかりを得る。CD8+ T細胞の中の集団によってBBRの代謝への影響が異なるというこれまでの結果をもとに、その分子機構を明らかにする。前年度に示した酵素の翻訳後修飾を検出する方法を開発し、抗腫瘍免疫と翻訳後修飾の関係を明らかにする。また、BBRによって機能が抑制される免疫細胞に関して、その分子機構を明らかにするとともに、その免疫細胞の抑制を解除する方法を探索する。腫瘍浸潤T細胞のin vitro培養系へのBBR添加による表現形の変化を明らかにし、腫瘍浸潤T細胞の機能を増強できるか、さらにどのような併用剤が抗腫瘍効果の増強に効果的か化合物スクリーニングを行う。これらを統合してBBRを用いた効果的ながん免疫治療法を開発する。
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