研究実績の概要 |
がん遺伝子の活性化はDNA損傷を介してゲノム不安定性を促進する一方、細胞の老化・死を引き起こす。したがって、この仕組みの解明は発がん過程の理解だけでなく治療の開発にも重要である。ゲノムには、一本鎖DNAがG4と呼ばれる二次構造を形成しうるモチーフが37万以上あると推定される。グアニン四重鎖構造(G4)はDNA複製に対する障壁となるが、がん遺伝子活性化が誘導するDNA損傷における役割は明らかではない。本研究では、がん遺伝子誘導性DNA損傷におけるG4の役割を解明することを目的として、複数のヒト細胞株(U2OS, Tert-RPE1, HeLaなど)にER-Myc融合遺伝子を安定的に発現するクローンを作成した。これらの細胞株を4OHTによって処理するとMycが活性化され、DNA損傷を伴う細胞周期の停止や細胞死の誘導が観察された。G4を特異的に認識するモノクローナル抗体(BG4)を用いて核内DNAのG4構造を染色したところ、いずれの細胞においても4OHT処理によってG4シグナルの増加が見られた。また、一部の細胞において、4OHT処理細胞においてG4安定化剤pyridostatin(PDS)とPhen-DC3に対する細胞毒性感受性が増加した。興味深いことに、PDSやPhen-DC3はPCNAユビキチン化とポリメラーゼetaのフォーカス形成を誘導した。これらの結果は、PDSが複製ストレスを誘導することを示唆する。そこで、ポリメラーゼetaの発現をsiRNAによって抑制したところ、PDSやPhen-DC3によるDNA損傷と細胞死を相乗的に促進した。以上より、Myc活性化による複製ストレスが部分的にDNA損傷の発生に関与しており、G4安定化剤とポリメラーゼeta阻害がMyc活性化細胞において合成致死作用を示すことが示唆された。
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