研究課題/領域番号 |
19K07777
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研究機関 | 熊本大学 |
研究代表者 |
別府 透 熊本大学, 病院, 非常勤診療医師 (70301372)
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研究分担者 |
山下 洋市 熊本大学, 大学院生命科学研究部(医), 准教授 (00404070)
中川 茂樹 熊本大学, 病院, 非常勤診療医師 (10594872)
山村 謙介 熊本大学, 病院, 特任助教 (10816507)
清住 雄希 熊本大学, 病院, 非常勤診療医師 (30827324)
宮田 辰徳 熊本大学, 病院, 非常勤診療医師 (80594887)
林 洋光 熊本大学, 病院, 助教 (80625773)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | 肝細胞癌 / エピジェネティクス / DNAメチル化 / LINE-1 |
研究実績の概要 |
2001年1月から2016年2月の間に熊本大学消化器外科において、HCCに対し肝切除を施行した231例を対象に、癌部、非癌部のLINE-1のメチル化を測定し、臨床病理学的所見及び予後との相関を評価した。切除された肝癌は病理検査にて全てHCCと確認された。この231例の癌部、非癌部をマクロダイセクションによって標本を削り出し、DNAを抽出した。バイサルファイト後、パイロシークエンス法によりLINE-1のメチル化レベルを測定した。計112例のHCCの癌部、非癌部のLINE-1メチル化を測定したところ、癌部では非癌部に比べ有意にLINE-1のメチル化レベルが低値であった(癌部:64.1±1.4、非癌部:77.4±1.3、P<0.0001)。また、C型肝炎ウイルス感染症例(63.7±1.7 vs 67.5±1.7)、DCP≧40mAU/mL症例(64.4±1.1 vs 68.7±1.7)ではLINE-1メチル化レベルは有意に低値であった。さらに、LINE-1の低メチル化症例では無再発生存期間において有意に予後不良であったが(HR: 1.73, Log-rank P=0.0080)、全生存期間においては明らかな統計学的有意差(HR: 1.38, Log-rank P=0.2463)は認めず、LINE-1の低メチル化はHCCにおける無再発生存期間における独立予後不良因子(HR:1.62. 95%CI: 1.06-2.58, p=0.025)であった。興味深いことに、非肝炎ウイルス性背景肝(78.5±2.5)における非癌部のLINE-1メチル化は、B型肝炎感染(74.9±2.6)及びB及びC型肝炎ウイルス重複感染症例(70.7±6.9)の値に比べて有意に高値であることから、肝炎ウイルス感染によるDNAメチル化への影響が示唆された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
対象期間に切除されたHCC標本を集め、HCCの癌部、非癌部のLINE-1のメチル化をバイサルファルト法及びパイロシークエンス法を用いて評価した。加えて、臨床病理学的所見や予後との相関を評価することができた。これらのことにより、HCCにおいて、LINE-1のメチル化は無再発生存期間の重要な予後バイオマーカーになる可能性が示唆された。一方でLINE-1のメチル化全生存期間の独立予後不良因子ではなかった。これは、HCCの治療戦略として、肝機能が許容されれば、再発後でも積極的に再肝切除を行うことにより予後が改善することが報告されていることから、LINE-1の低メチル化症例が再発をしやすくても、再肝切除によって予後が改善され、全生存期間においての影響が統計学的に出なかったことが予想される。また、病因によって背景肝(正常部)のLINE-1のメチル化レベルが異なることも明らかになった。肝炎ウイルス感染においても、B型肝炎感染例ではLINE-1のメチル化が非肝炎ウイルス例に比べて有意に低いにも関わらず、C型肝炎ウイルスでは有意な差を認めなかった。これは、B型ウイルスがDNAウイルスでC型肝炎ウイルスがRNAウイルスからであるのか、それとも他の原因があるのかなど引き続き検討していく必要があり興味深いところである。
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今後の研究の推進方策 |
臨床サンプルを用いて、背景肝(アルコール性、非アルコール性、その他)の病因毎に分けてLINE-1のメチル化レベルを測定し、病因や肝繊維化、肝機能との関連を評価する。また、LINE-1の挿入箇所や転移との関連も併せて評価し、発癌に関連する関連遺伝子の発現等の評価を行う。 動物実験においては、NASHモデルマウスの肝及び発癌させた肝からDNAを抽出し、LINE-1のメチル化と転移の相関についても検討する。
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次年度使用額が生じた理由 |
(理由)医局内保管の試薬、消耗品を使用することができたため。 (使用計画)試薬、消耗品の購入費に充てたいと考える。また、最新の研究情報を得るため、及び、研究成果発表のための学会出張旅費にも充てたいと考える。
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