Lynch 症候群の大腸癌はマイクロサテライト不安定性(MSI)を有し、その結果として、腫瘍細胞の体細胞遺伝子変異に由来する新規癌抗原(neoantigen)が出現しやすいことが示唆されている。近年、進展した大腸癌組織からGram陰性嫌気性細菌Fusobacterium nucleatum (F. nucleatum)が高頻度に検出されることが報告されている。以上を鑑み、本研究では、Lynch 症候群に由来する大腸癌の進展にF. nucleatumが及ぼす影響を明らかにすることを目指す。本年度までに、大腸癌臨床検体を用いてF. nucleatum検出系を構築し、解析を進めてきた。また、F. nucleatum特異的な核酸プローブを用いたin situ hybridization法により大腸癌組織におけるF. nucleatumの局在様式を検討したところ、腫瘍組織においてfocalな分布傾向が明らかとなった。 前年度までに、in vitro実験系においても安定して複数のF. nucleatum株が嫌気培養できるようになり、大腸癌細胞株培養系にF. nucleatumを接種すると、一定時間経過後に細胞増殖とEMT化が促進されることを確認し、トランスクリプトームアッセイから、F. nucleatum感染によって惹起されると思われる遺伝子発現パターンの候補を選定した。本年度は、トランスクリプトームアッセイから絞り込んだ標的分子の挙動をタンパクレベルで検討し、F. nucleatum感染が腫瘍病体に及ぼす影響の確認を進めた。
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