腸内細菌叢の網羅的解析による肝細胞癌での抗PD-1抗体の治療効果予測因子の探索

2021 年度 実施状況報告書

• 研究課題/領域番号: 19K07788
• 研究機関: 久留米大学
• 研究代表者: 鳥村 拓司 久留米大学, 医学部, 教授 (60197986)
• 研究分担者: 光山 慶一 久留米大学, 医学部, 教授 (20200066) ; 岩本 英希 久留米大学, 医学部, 助教 (40529541) ; 古賀 浩徳 久留米大学, 医学部, 教授 (90268855)
• 研究期間 (年度): 2019-04-01 – 2023-03-31
• キーワード: 腸内細菌叢 / 免疫チェックポイント阻害剤 / 腫瘍免疫 / 肝細胞癌 / 抗腫瘍効果

研究実績の概要

本研究の目的はヒトの免疫応答に重要な役割を果たしていると言われている腸内細菌叢を網羅的に解析し、ヒト肝細胞癌に対するアテゾリズマブ+ベバシズマブの治療の治療効果に関連する腸内細菌の関与を明らかにすることである。このためヒトの検体を使用するため、久留米大学医学部の倫理委員会にたいし、研究遂行のための申請書を提出し、本研究を遂行するにあたって特に倫理的に問題点がないとの承認を得た。次に、症例の糞便と血清の採取を懸命に行っているが当初の予定よりも遅れている。対象症例である切除不能進行肝細胞癌で治療として分子標的薬療法(レンバチニブ)を行う症例とアテゾリズマブ+ベバシズマブ療法を行う症例の糞便、血液を採取し保存し、採取した便から
DNAを抽出した後、YIF-SCANを用いて便中の総菌数の算出、便中のDNAのPCR産物をMiSeqを用いたシーケンスしてメタ16S解析を行っている。また、採取した血液でProtein arrayにてサイトカイン、ケモカインを解析中である。また、アテゾリズマブ+ベバシズマブ療法を行った51例の解析をおこない、奏効率35.3%, 無増悪生存期間5.4カ月であり、主だった副作用は肝障害が6.4%, 高血圧31.3%, 倦怠感23.5%, 甲状腺機能低下症13.7%であることは明らかにした。基礎研究においては、担癌マウスの組織、糞便、血清の蓄積を行うとともに、Hep55-1c.マウス肝癌細胞株を用いてVEGF ノックアウト細胞を作成し、同系統のマウスに接種し作成した腫瘍内の細胞浸潤をHep55-1c.野生株の腫瘍と比較した。その結果、CD3,CD8陽性細胞の浸潤が低下し、汎マクロファージとM2マクロファージの浸潤も低下していたことを明らかとした。アテゾリズマブ+ベバシズマブ療法の抗腫瘍効果に関する検討では、担癌マウス作成に失敗したため、現在再度行っている。

現在までの達成度 (区分)

4: 遅れている

理由

2019年度に久留米大学医学部の倫理委員会にたいし、研究遂行のための申請書を提出し、本研究を遂行するにあたって特に倫理的に問題点がないとの承認を得た。倫理委員会の承認に基づき、2020年度,2021年度は臨床症例の糞便と血清の採取を引き続き行ったが、コロナ禍の中検体の採取はなかなか進まなかった。それでも切除不能進行肝細胞癌の症例でレンバチニブ療法を行った4症例とアテゾリズマブ+ベバシズマブ療法を行った21症例、肝硬変症例5例の糞便、血液を採取し保存し、採取した便からDNAを抽出し、YIF-SCANを用いて便中の総菌数の算出、便中のDNAのPCR産物をMiSeqを用いたシーケンスしてメタ16S解析中である。また、採取した血液でProtein arrayにてサイトカイン、ケモカインを解析中である。また、アテゾリズマブ+ベバシズマブ療法を行った51例の臨床成績の解析をおこない、奏効率35.3%, 無増悪生存期間5.4カ月であり、主だった副作用は肝障害が6.4%, 高血圧31.3%, 倦怠感23.5%, 甲状腺機能低下症13.7%であった。全生存期間はいまだ症例の50%異常が生存中のため未達である。この結果を論文化した。基礎研究においては、担癌マウスの組織、糞便、血清の蓄積を行うとともに、Hep55-1c.マウス肝癌細胞株を用いてVEGF ノックアウト細胞を作成し、同系統のマウスに接種し作成した腫瘍内の細胞浸潤をHep55-1c.野生株の腫瘍と比較した。その結果、CD3,CD8陽性細胞の浸潤が低下し、汎マクロファージとM2マクロファージの浸潤も低下していたことが明らかとなった。糞便や血清中にCOVID-19ウイルスが含まれている危険性があるため症例の蓄積および解析が予定通りに行えていないことが計画より遅れている点である。

今後の研究の推進方策

ヒト肝細胞癌症例に対する検討では、切除不能進行肝細胞癌症例を対象として、アテゾリズマブ＋ベバシズマブ併用療法の治療効果と腸内細菌叢との関連を明らかにするためEOB-MRI もしくはDynamic CTにて抗腫瘍効果を判定出来うる30症例(現在21症例採取済)の治療前、治療開始6週、2週御の糞便及び血液を採取し、対象症例としてレンバチニブ治療症例30症例(現在4症例採取済)、肝硬変症例 15症例(現在5症例採取済)から採取した糞便と共にDNAを抽 出した後、YIF-SCANを用いて便中の総菌数の算出、便中のDNAのPCR産物をMiSeqを用いたシーケンスしてメタ16S解析を行っている。このすべての結果が出たら、 腸内細菌叢と治療効果を対比し、統計学的に解析を進め、アテゾリズマブ＋ベバシズマブ併用療法における腸内細菌叢と治療効果との関連を明らかにする。動物実験においては、昨年度Germ free飼育下でマウス肝 癌細胞株をマウス肝臓に接種し、orthotopic modelの作製を試みたが腫瘍細胞が生着せず失敗した。今年度も引き続きorthotopic modelを作製し、糞便移植を行い、ヒト症例においてアテゾリズマブ＋ベバシズマブ併用療法で治療し抗腫瘍効果のあった症例の糞便を移植した群ではアテゾリズマブ＋ベバシズマブ併用療法の抗腫瘍効果を認め、反対に、アテゾリズマブ＋ベバシズマブ併用療法で治療し抗腫瘍効果の認められなかった症例の糞便を移植した群ではアテゾリズマブ＋ベバシズマブ併用療 法の抗腫瘍効果を認められないことを確認する。

研究成果

• [雑誌論文] "First-line sorafenib sequential therapy and liver disease etiology for unresectable hepatocellular carcinoma using inverse probability weighting: A multicenter retrospective study " (2021)
  • 著者名/発表者名: Shimose S, Hiraoka A, Nakano M, Iwamoto H, Tanaka M, Tanaka T, Noguchi K, Aino H, Ogata K, Kajiwara M, Itano S, Yokokura Y, Yamaguchi T, Kawano H, Matsukuma N, Suga H, Niizeki T, Shirono T, Noda Y, Kamachi N, Okamura S, Kawaguchi T, Koga H, Torimura T
  • 雑誌名: Cancer Medicine 巻: 10 ページ: 8530-8541
  • DOI: 10.1002/cam4.4367.
  • 査読あり / オープンアクセス
• [雑誌論文] Alternating Lenvatinib and Trans-Arterial Therapy Prolongs Overall Survival in Patients with Inter-Mediate Stage HepatoCellular Carcinoma: A Propensity Score Matching Study (2021)
  • 著者名/発表者名: Shimose S, Iwamoto H, Tanaka M, Niizeki T, Shirono T, Noda Y, Kamachi N, Okamura S, Nakano M, Suga H, Yamaguchi T, Kawaguchi T, Kuromatsu R, Noguchi K, Koga H, Torimura T
  • 雑誌名: Cancers 巻: 13 ページ: 160
  • DOI: 10.3390/cancers13010160.
  • 査読あり / オープンアクセス
• [雑誌論文] Survival Benefit of Hepatic Arterial Infusion Chemotherapy over Sorafenib in the Treatment of Locally Progressed Hepatocellular Carcinoma (2021)
  • 著者名/発表者名: Iwamoto H, Niizeki T, Nagamatsu H, Shimose S, Shirono T, Nakano M, Okamura S, Noda Y, Kamachi N, Sakai M, Suzuki H, Kuromatsu R, Kawaguchi A, Koga H, Torimura T,et al.
  • 雑誌名: Cancers 巻: 13 ページ: 646
  • DOI: 10.3390/cancers13040646.
  • 査読あり / オープンアクセス
• [雑誌論文] Initial Experience of Atezolizumab Plus Bevacizumab for Unresectable Hepatocellular Carcinoma in Real-World Clinical Practice (2021)
  • 著者名/発表者名: Iwamoto H, Shimose S, Noda Y, Shirono T, Niizeki T, Nakano M, Okamura S, Kamachi N, Suzuki H, Sakai M, Kajiwara A, Itano S, Tanaka M, Yamaguchi T, Kuromatsu R, Koga H, Torimura T andon behalf of The Kurume Liver Cancer Study Group of Japan
  • 雑誌名: Cancers 巻: 13 ページ: 2786
  • DOI: 10.3390/cancers13112786.
  • 査読あり / オープンアクセス
• [雑誌論文] Clinical Importance of Regimens in Hepatic Arterial Infusion Chemotherapy for Advanced Hepatocellular Carcinoma with Macrovascular Invasion (2021)
  • 著者名/発表者名: Niizeki T, Iwamoto H, Shirono T, Shimose S, Nakano M, Okamura S, Noda Y, Kamachi N, Hiroyuki S, Sakai M, Kuromatsu R, Koga H and Torimura T
  • 雑誌名: Cancers 巻: 13 ページ: 4550
  • DOI: 10.3390/cancers13174450.
  • 査読あり / オープンアクセス
• [雑誌論文] Immunological inflammatory biomarkers as prognostic predictors for advanced hepatocellular carcinoma (2021)
  • 著者名/発表者名: Nakano M, Kuromatsu R, Niizeki T, Okamura S, Iwamoto H, Shimose S, Shirono T, Noda Y, Kamachi N, Koga H, Torimura T, Kurume Liver Cancer Study Group of Japan
  • 雑誌名: ESMO Open 巻: 6 ページ: 100020
  • DOI: 10.1016/j.esmoop.2020.100020.
  • 査読あり / オープンアクセス
• [雑誌論文] Association between the Albumin-Bilirubin (ALBI) Score and Severity of Portoplumonary Hypertension (PoPH): A Data-mining Analysis (2021)
  • 著者名/発表者名: Rapposelli IG, Shimose S, Okamura S, Nakano M, T
  • 雑誌名: ESMO Open 巻: 6 ページ: 100190
  • DOI: 10.1016/j.esmoop.2021.100190.
  • 査読あり / オープンアクセス / 国際共著
• [学会発表] 切除不能進行肝細胞癌に対するレンバチニブの造影超音波検査による早期効果判定の有用性 (2021)
  • 著者名/発表者名: 蒲池直紀、中野聖士、鳥村拓司
  • 学会等名: 第57回日本肝臓学会総会
• [学会発表] Circulating IGFBP-1 provides molecular targeted agent-resistance in hepatocellular carcinoma (2021)
  • 著者名/発表者名: Suzuki H, Iwamoto H, Nakamura T, Masuda A, Sakaue T, Tanaka T, Niizeki T, Okamura S, Shimose S, Shirono T, Noda Y, Kamachi N, Kuromatsu R, Koga H, Torimura T
  • 学会等名: JSH International Liver Conference 2021
  • 国際学会
• [学会発表] BCLC B 肝細胞癌におけるレンバチニブ療法の post-progression survival 及び post treatmentの検討 (2021)
  • 著者名/発表者名: 下瀬茂男、新関 敬、岩本英希、城野智毅、蒲池直紀、野田 悠、岡村修祐、中野聖士、黒松亮子、古賀浩徳、鳥村拓司
  • 学会等名: 第57回日本肝臓学会総会
• [学会発表] 肝細胞癌に対する肝動注化学療法 New FP 療法とソラフェニブの治療成績の多施設後ろ向き比較研究 (2021)
  • 著者名/発表者名: 岩本英希、古賀浩徳、鳥村拓司
  • 学会等名: 第57回日本肝臓学会総会
• [学会発表] Primary Treatment with Molecular-targeted Agents for Hepatocellular carcinoma: A Propensity Score-matching Analysis (2021)
  • 著者名/発表者名: Nakano M, Kuromatsu R, Niizeki T, Okamura S, Iwamoto H, Shimose S, Shirono T, Noda Y, Kamachi N, Koga H, Torimura T
  • 学会等名: JSH International Liver Conference 2021
  • 国際学会
• [学会発表] 進行肝細胞癌に対するアテゾリズマブ,ベバシズマブ併用療法の安全性と有効性の評価-多施設共同研究- (2021)
  • 著者名/発表者名: 下瀬茂男、岩本英希、新関 敬、城野智毅、野田 悠、岡村修祐、古賀浩徳、鳥村拓司
  • 学会等名: 29th JDDW（第25回日本肝臓学会大会）
• [学会発表] 高齢者進行肝細胞癌に対するアテゾリズマブ及びベバシズマブ併用療法の使用経験 (2021)
  • 著者名/発表者名: 城野智毅、新関 敬、岩本英希、下瀬茂男、野田 悠、岡村修祐、古賀浩徳、鳥村拓司
  • 学会等名: 29th JDDW（第25回日本肝臓学会大会）
• [学会発表] "INITIAL EXPERIENCE OF ATEZOLIZUMAB PLUS BEVACIZUMAB FOR UNRESECTABLE HEPATOCELLULAR CARCINOMA IN REAL-WORLD CLINICAL PRACTICE" (2021)
  • 著者名/発表者名: Iwamoto H, Shimose S, Takashi N, Noda Y, Shirono T, Nakano M, Okamura S, Kamachi N, Suzuki H, Kuromatsu R, Koga H and Torimura T
  • 学会等名: The Liver Meeting Digital Experience 2021（The 72th Annual Meeting of the American Association for the Study of Liver Diseases (AASLD)）
  • 国際学会
• [図書] 腸内細菌と肝細胞癌 (2021)
  • 著者名/発表者名: 腸内細菌と肝細胞癌
  • 総ページ数: 3
  • 出版者: 医学書院