研究課題/領域番号 |
19K07789
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研究機関 | 公益財団法人がん研究会 |
研究代表者 |
冨樫 由紀 公益財団法人がん研究会, がん研究所 分子標的病理プロジェクト, 研究員 (00648016)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2024-03-31
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キーワード | 唾液腺型腫瘍 / 融合遺伝子 |
研究実績の概要 |
腺様嚢胞癌(ACC)はきわめて稀な腫瘍であり、病状の進行は比較的緩やかであるが、局所再発や遠隔転移を来しやすく、長期予後は不良である。実臨床では有効な阻害剤が切望される一方、有効な阻害剤候補すらも、ほぼ示されてこなかった。その理由の1つに、薬剤感受性を評価するための細胞株が最近まで存在しなかったことが挙げられる。申請者らはこれまでに、ほぼすべての症例において、MYBあるいはMYBL1が高発現する様になる染色体構造異常を相互排他的に有し、それらの転写産物は、融合型、切断型、全長型と多様性に富むことを明らかにしてきた。本研究では、腺様嚢胞癌患者の手術検体より初代培養癌細胞株を樹立し、治療標的分子の探索と治療法の発見を目的として研究を行い、2022年度は以下の結果を得た。 1. これまでに集積した腺様嚢胞癌、唾液腺導管癌の手術検体およびPatient-derived xenograft (PDX)検体のRNA seqデータについて、解析を継続中である。 2. 新たに2症例の腺様嚢胞癌検体について、細胞株およびPDX樹立の機会があり、現在進行中である。それらの凍結保存検体についてPCR-basedの解析を施行したところ、1例(ACC136)はMYB -NFIB融合型、1例(ACC137)はMYBL1-NFIB融合型であった。 3. 腺様嚢胞癌症例(ACC132, ACC136, ACC137)について、PDXモデルの樹立が進行中である。また唾液腺導管癌症例であるACC129に関しては、PDX由来組織の凍結ストックを再度マウス皮下に移植したところ生着し、継代可能であった。 4. 昨年度より進めていたPLAG1免疫染色の条件検討について、条件を決定し、ACC129の患者手術検体およびPDX検体に施行した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
腺様嚢胞癌は稀少癌であり、手術件数はもとより少ないが、培養検体は診断に用いない余剰分より供出されるため、培養の機会は乏しい。2022年度も2020年度、2021年度に引き続き、利用可能であった手術検体は非常に少なかった。さらに、腺様嚢胞癌細胞の増殖は遅緩であり、有用な培養条件も知られていないため、細胞株の樹立は実質的に困難と言わざるを得ない。しかしながら、腺様嚢胞癌と同様に稀であり、きわめて予後不良かつ標準的な薬物療法が十分に確立されていない唾液腺導管癌症例について、PDXモデルの樹立に成功している。これまで継代し収集してきたすべてのPDX検体において、当該症例の患者手術検体より検出されたPLAG1融合遺伝子が保持されていた。また、PLAG1免疫染色により、PLAG1タンパクの高発現が確認された。
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今後の研究の推進方策 |
引き続き、腺様嚢胞癌手術検体と唾液腺導管癌検体からの初代培養細胞株樹立を継続する。とくに腺様嚢胞癌症例ACC137については、細胞株樹立にはいまだ至っていないものの、稀少癌である腺様嚢胞癌の中でもおよそ1/4にしか見られないMYBL1-NFIB融合型を有しており、培養初期の細胞を用いて、阻害剤ライブラリーによる薬剤感受性スクリーニングを行う。並行して、腺様嚢胞癌症例について、取得済みのRNA seqのデータを解析し、MYBあるいはMYBL1の転写産物の違いによるそれらの発現量の比較や変異解析を行う。唾液腺導管癌症例ACC129については、ACC137と同様、細胞株樹立には至っていないが、培養初期の細胞を用いて薬剤感受性スクリーニングを試みる。また、唾液腺導管癌で報告されているアンドロゲンレセプターやHER2の高発現に着目してRNA seqや免疫染色の結果を検討する。
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次年度使用額が生じた理由 |
2020年度、2021年度に引き続き、2022年度も唾液腺型悪性腫瘍の手術件数はそれまでのおよそ65%に減少した。腺様嚢胞癌の手術件数自体は回復傾向にあるものの、2022年度はすでに解析済みの再発例や腫瘍サイズが小さい検体が多く、手術検体が供出される機会が非常に乏しかった。そのため、検体収集に想定以上の時間を要している。また腺様嚢胞癌はもともと発育が緩徐であり、細胞培養にもかなりの時間を要する。これらが理由である。2023年度は、これまで同様、試薬などの消耗品購入とNGS解析に使用する予定である。
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