唾液腺型腫瘍の一つである腺様嚢胞癌(ACC)は、分泌腺から発生するきわめて稀な腫瘍である。病状の進行は比較的緩徐であるが、局所再発や遠隔転移を来しやすく、長期予後は不良である。そのため、実臨床では有効な阻害剤が切望されてきた。しかしながら、これまで有効な阻害剤に関する知見は乏しく、有効な治療法の確立は困難であると言わざるを得ない現況にある。その理由の一つに、薬剤感受性を評価するための細胞株が最近まで存在しなかったことが挙げられる。申請者らはこれまでに、ほぼすべての症例において、MYBあるいはMYBL1が高発現する様になる染色体構造異常を相互排他的に有し、それらの転写産物は、融合型、切断型、全長型と多様性に富むことを明らかにしてきた。本研究では、腺様嚢胞癌患者の手術検体より初代培養癌細胞株を樹立し、治療標的分子の探索と治療法の発見を目的として研究を行い、2023年度は以下の結果を得た。 1. これまでに集積した腺様嚢胞癌12症例、唾液腺導管癌2症例の手術検体およびPatient-derived xenograft(PDX)検体のRNA seqデータについて、新たに取得したデータを追加し、解析を行った。 2. 唾液腺導管癌症例であるACC129においては、昨年度PDXモデルが樹立された。当該症例の患者手術検体よりPLAG1融合遺伝子が検出されており、継代により収集したすべてのPDX検体において、同様の融合遺伝子とPLAG1のmRNAの高発現が保持されていることを確認した。また、PLAG1免疫染色を施行し、手術検体とPDX検体を比較検討した。 3. MYB全長型を示す腺様嚢胞癌症例であるACC132は、PDXモデル樹立の途上にあるが、これまで収集したPDX検体について、FISHによりMYBの構造異常を確認した。また、MYBのmRNAおよびタンパク発現を手術検体と比較した。
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