本研究では、身体所有感の神経基盤を調べるための動物モデル系の確立を目指した。そのため、サルでもラバーハンド錯覚が生じるかどうかを調べた。 タッチパネルを用いて、サルに到達課題を訓練した。まず、サルの正面に赤い円(開始刺激)が呈示されたら、サルはそこに右手を置く。次に、開始刺激と異なる位置に標的刺激として黄色い円が呈示される。サルは開始刺激が消えたら標的に向かって到達運動を行ない、成功したら報酬が与えられる。この課題ができるようになった後、タッチパネルとサルの間に透過型ディスプレイを設置した。試行の開始時にはこのディスプレイを透過モードにし、サルが自分の手を見ながら開始刺激の上に手を置けるようにした。サルが開始刺激に右手を置いたらディスプレイを非透過モードに切り替え、実際の位置より右、または左にずれた位置にある開始刺激にタッチしているサルの右手の画像を呈示する。サルにこの画像を数秒間、観察させた後、透過ディスプレイの上に標的刺激を呈示して到達課題を行なわせた。もし、サルが画像の手に対して所有感を覚えた場合、実際の右手の位置とみかけの手の位置に差があるため、到達点がずれることが予想される。このように、画像の手の位置と、到達運動のタッチ位置の関係を評価することで、画像に対する身体所有感を評価することを試みた。
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