研究課題/領域番号 |
19K07795
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研究機関 | 電気通信大学 |
研究代表者 |
正本 和人 電気通信大学, 大学院情報理工学研究科, 教授 (60455384)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | 脳微小循環 / 運動と脳機能 / 神経血管カップリング / 二光子顕微鏡 / 大規模画像解析 |
研究実績の概要 |
本年度は脳微小循環の評価法と学習実験のシステムを確立した。脳微小循環の計測には赤血球に蛍光タンパク質を発現した遺伝子組み換えラットを用いた。イソフルラン麻酔下で脳微小循環の血漿と赤血球を二光子顕微鏡下で同時にイメージングし、以下の知見を得た。細動脈の血管運動は、主に血漿成分の拍動を駆動するが、血球の径方向の運動には相対的に寄与が小さい。これによって細動脈壁近傍では、血管運動によって血漿層の厚みが変化する。一方、細静脈では血漿層が一定に保たれており、血球と血しょうの流れがよく一致した。毛細血管領域では、血球の運動は血漿体積とは独立に分岐を起点として流速が大きく変動する。すなわち、慣性項による血流制御の影響は小さく、ネットワークの入口出口における圧力差あるいは粘性項による支配が大きいことを実験的に確認した。このことから、脳微小循環における血球の流れの変動は毛細血管の分岐数を反映することを示唆する。そこで、今後は加齢による血管密度と毛細血管領域における血球変動との関係性について研究を進める。一方、細動脈領域では血管の運動による径方向への速度分布の影響は余り見られなかったが、軸方向の流れについては未解決である。今後、ドップラOCTによる軸方向の速度成分を計測することで血管運動を駆動源とした血球の流れへの力学的作用について実験的に明らかにする。 学習実験のシステム構築は、先行研究を参考に報酬系としての給水制御と舌の動きの検出、および条件付けとなる手指への冷却刺激部位からなる。前日からの絶水によりマウスは実験開始から2-3日の間に水飲みの条件付けが成立することを確認した。このとき、給水位置をマウスが認知するために一定の馴化期間が必要であることがわかった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
研究は当初の計画以上にうまく進んでいる。 本年度に確立することを目的とした学習実験は正常な若齢マウスにおいて、馴化期間の有無による学習成立への影響を明らかにすることができた。さらに当初の計画にはなかった実験動物の行動計測に関して、モニター用の動画像からケージ内での行動解析および画像認識による体重管理の可能性について成果を得た。本システムは昨今のCOVID-19の影響で飼育施設への入室が制限された条件下でも、リモートで飼育動物の行動および飼育環境の管理を可能にした点で、当初の計画以上の進展が得られた。また、脳微小循環の蛍光イメージングに関しても、当初の計画通りに成果を得ることができた。一方で、発表を予定していた国内微小循環学会や国際学会(組織への酸素輸送ダイナミクスISOTT)はすべて延期されており、研究成果の発表は遅れている。同様の理由で機械学会、バイオエンジニアリング部門講演会は開催自体が中止となったため、予定していた成果発表の機会が得られなかった。次年度以降に順延となった学会活動については、順次発表を行う予定であるが、今年度に得られた成果に関しては学会発表に先行して論文発表の準備も進めている。現在、国内誌への投稿準備中の論文が一本、国際誌への投稿中の論文が一本、またこれから投稿を予定している論文が4本である。それぞれ今年度の学会発表を予定していた論文内容をフルペーパーとしてまとめたものである。
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今後の研究の推進方策 |
年度の当初から現在までcovid-19の影響で全ての実験が停止している。このため、今年度の進捗は予定より大幅に計画が遅れる見通しである。最も大きな問題は年度の更新時に学内への立ち入りが制限されたため、研究室学生による実験の引継ぎができなかった点である。実験の引継ぎができなかったため、現在も続く登学禁止の措置が解除されても昨年度の実験を継続して再開することは非常に困難な状況である。時間をかけてゆっくりと手順を確認しながら新規に配属された学生への研究指導を再開させていく。また学内の閉鎖に伴い、実験動物の繁殖も一時的に停止したため、遺伝子組み換え動物の繁殖を早期に復旧させる必要がある。必要に応じて野生型動物を導入し組み換え動物とのヘテロ接合型動物を作成することで、多面的にバックアップ体制を整えて実験計画への影響を最小限に抑える。 一方で今年度に発表を予定していた国際学会への出席は全く見通しが立てられない状態である。そこで見通しが立たない国際学会への発表よりも国内での学会発表を優先する。国内の学会発表は秋以降の開催状況をみながら成果を発信する。必要に応じてリモートでの学会発表や議論の機会も有効に活用する。 研究の推進方策については、利用可能な動物数と実験システムの確認を並行しながら引き続き当初の計画に従い、脳血流の増強による学習機能への影響を評価する。国内の共同研究先も同様の状況であるため、できることから着実に進めていく。
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