本研究は意図した速度で歩行するための適応制御の神経基盤を明らかにすることを目的とする。本年度はマウスの行動実験・光遺伝学を用いた神経活動操作実験を行い、データを収集するのと並行して、昨年度に引き続き、異なる実験から得られたデータを用いて解析法についての検討を行った。本研究では小脳細胞の活動による情報の符号化様式を明らかにするために、歩行中の行動パラメータと神経活動の関係を定量的に明らかにする必要がある。しかし、自発歩行のように統制を取らない行動の場合、行動パラメータは多変量になり、それぞれのパラメータは同時かつ独立または相関して変動する。さらに小脳プルキンエ細胞の複雑スパイクは発火数が少なく、神経活動と行動パラメータを定量化するためには高度な解析法が必要になる。本研究では機械学習の手法である正則化を用いた一般化線形モデル解析を適用する計画であるが、その方法の妥当性を検討するために、歩行運動ではない行動を行うマウスの複雑スパイクの解析を行った。行動パラメータは運動や報酬時刻など5種類を用いた。一般化線形モデルによって多くの細胞の応答を行動パラメータの組み合わせで定量的に説明することができた。応答するパラメータが似ている細胞は皮質内で近接して存在し集団を形成していた。集団を形成する細胞は同期的に活動していた。これらの結果からプルキンエ細胞は行動情報を処理するモジュールとして機能していることが示唆された。また、これらの結果から今回の解析法は、比較的自由に行動を行う間の小脳神経細胞の活動を定量的に記述できることを確認できた。今後はこの解析法を歩行中マウスの神経活動へ適用し、意図した速度で歩行するための適応制御の神経基盤を解明する。 これらの解析結果について、第44回日本神経科学大会(2021年7月・神戸)で発表を行った。また、結果をまとめた論文を国際誌へ投稿中である。
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