研究実績の概要 |
発達性読み書き障害(developmental dyslexia:以下DD)は限局性学習症の主要型である。我が国におけるDD研究は近年報告されているが、その病態に関係する認知機能や神経画像の研究が主体である。欧米諸国を中心にこれまでDDの候補遺伝子(DYX1C1,DCDC2,KIAA0319,ROBO1など)に関する報告はあるが、我が国では網羅的な研究は行われていない。本研究は、日本語話者のDD患者において、病因となる遺伝子変異の有無を明らかにすることを目的としている。日本語話者のDD患者においても、欧米諸国においてこれまで報告された遺伝子変異がみられるのか、日本語話者に特異的なDDの遺伝子変異が存在するのかを明らかにしたい。この研究は日本で初めての取り組みであり、研究成果はDDの病態生理に関する研究の進歩やDDの治療教育に貢献できる。 対象はDD児を持つ3家族で、そのうち1家族は同胞11人中にDD5人を擁する大家族である。DD児計8名とその家族12名、および定型発達児・者24名に対して、口腔粘膜からDNAを抽出してSNPアレイ(Illumina社Infinium Asian Screening Array-24 v1.0)を行った。Asian Screening Arrayは約9,000人の全ゲノムシーケンスから成る東アジア人リファレンスパネルを用いて構築されており、約60万のSNPsを評価できる。現在、結果に対して統計学的に解析しているが、DD児に有意差のあるSNPsをいくつか検出した。特に、大家族のDDにおいてはNance-Horan Syndrome関連遺伝子のエクソンに2か所、イントロンに1か所、有意な変異を認めた。これはXp22.13に位置する遺伝子で、先天性白内障、歯列異常、知的障害、先天性心疾患などを起こす。現在はその遺伝子変異とDDとの関連を検討している。なお、既知の報告にあるDYX1C1,DCDC2,KIAA0319,ROBO1に位置するSNPsには有意な変異を認めなかった。
|