コミュニケーションの際に個体が相手からの情報をもとに自らの行動を変化させたり相手を記憶しようとしたりする社会的動機づけが形成されるメカニズムは、まだよく分かっていない。本研究ではラットを用いて、社会的動機づけと社会性記憶の形成に役割を果たすモノアミン神経伝達回路の解明に取り組んできた。その結果、セロトニン神経の破壊とドパミン補充の両方の処置を受けたラット(モノアミン処置ラット)が他の個体に対して、捕食者に示す反応に似た強い忌避行動(ジャンプや逃走)を示す神経回路基盤を明らかにして、セロトニンやドパミンで修飾される前嗅核腹側尾部の神経活動が、同種個体を忌避する異常な社会的動機づけを司ることを見出した。以上の成果は最終年度において、私が責任兼筆頭著者の英語原著論文として”Brain Structure and Function”誌に発表され、当初の目的を達成することができた。一方で、当初研究計画の主題の1つであった、モノアミン作動性神経が行動の変化や記憶の形成に果たす役割をさらに明らかにしようとする上で、動機づけと記憶の形成にモノアミン神経が果たす役割の具体的解明に踏み込むには至らなかった。そこで最終年度において新たに、動機づけと記憶の形成にモノアミン神経が果たす役割の解明に踏み込むため、モノアミンが機能する時間窓にあたる放出タイミングを判定できる行動・記憶の解析系を設定して、この系を用いて連合記憶の形成に基づく行動変化の神経回路メカニズムと、それに関わるドーパミンの機能解明を目標として対象を定めた解析を行う研究計画を立案し、研究に着手した。
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