研究課題/領域番号 |
19K07812
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研究機関 | 国立研究開発法人情報通信研究機構 |
研究代表者 |
榎本 一紀 国立研究開発法人情報通信研究機構, 脳情報通信融合研究センター脳情報工学研究室, 研究員 (10585904)
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研究分担者 |
藤田 一郎 大阪大学, 生命機能研究科, 教授 (60181351)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | 霊長類 / 社会性 / 報酬 / 懲罰 / 意思決定 |
研究実績の概要 |
人間や多くの動物は相互依存的な社会関係のなかに生きている。そのような社会的状況下で適切に意思決定や行動選択を行い、損失を抑えつつ効率的に利益を得るためには、長期的な視点で利益や損失を予測して、行動環境や他者の振舞い、社会的ランクなどから有用な情報を抽出し、自己の行動に生かすことが必要である。本研究では、社会的状況において、同一環境内の他者に与えられる報酬や懲罰がどのように観察者の行動や神経活動に影響するのかを明らかにすることを目的とし、複数頭のニホンザルを用いて協調行動が必要な意思決定課題を学習させ、課題遂行中の行動データや神経活動を記録して解析する。本年度は、複数頭の動物から記録したデータの解析を行った。2頭の動物を複数個のLED内蔵ボタンが配置されたパネルを挟んで向かい合わせに座らせ、それぞれが点灯したボタンを押す行動課題を学習させた。協調的な行動ができると、口元のパイプから報酬として両者共に水数滴が得られる。この条件下で、二者間の社会的ランクが明確になると反応時間などの行動が変化することが分かった。次に、報酬だけでなく懲罰(顔面への空気吹き付け)も含めた意思決定を行うため、タッチパネルを用いた新規行動課題システムを開発し、各個体の社会的順位を加えた行動モデルを設計し、データ収集を行っている。また、過去のデータを解析し、社会的状況において必要となる長期的な将来報酬予測に関わるドーパミン細胞および線条体細胞について、それぞれが異なるトポグラフィで中脳および線条体内に存在しており、適切な行動選択に貢献していることを明らかにした。その結果をまとめて投稿した論文は、現在リバイス中である。以上の成果は、霊長類に共通する社会的行動の神経基盤解明に貢献する。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本年度は主に記録したデータの解析を行った。社会的文脈を導入した行動課題を学習した動物の行動データから、社会的順位などを含んだ行動モデルを設計、評価した。また、行動課題に報酬だけでなく懲罰として嫌悪刺激(顔面への空気吹き付け)も導入するため、タッチパネルや無機ELパネルを用いたタスクシステムを開発した。
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今後の研究の推進方策 |
今後の研究方針については、今年度に引き続き推進してゆく予定である。薬物注入や超音波刺激による神経活動操作実験の準備が整いつつあるので、それらを活用した社会的状況での行動モデルの設計と評価を行う。3頭の動物から行動学的データが記録できるよう処置を行い、その後、神経細胞活動記録を開始する。神経回路選択的な情報表現の解明、経路選択的な神経活動操作のための光遺伝学・化学遺伝学的手法を用いた実験、安静時fMRI画像撮影実験の実施についても検討する。
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次年度使用額が生じた理由 |
本年度は疫病の流行によって学会などが中止になり、予定していた出張費を使用しなかったので、来年度に研究費を繰り越す。来年度は、実験に必要な物品やデータ解析に用いる計算機などを購入予定である。神経活動操作実験の準備が整えば、神経活動阻害剤注入などを行うための実験機器や解析装置、薬品などが必要となり、経費を集中的に使うことが予測されるので、研究費の繰越しが望ましい。2頭以上の動物に外科手術を行い、頭部に保定装置と神経活動記録・薬品注入用チャンバーを取り付けることと計画しているので、そのための麻酔薬や実験機器、手術器具が必要となる。また、複数頭から同時に神経活動を記録し、解析するための機器やソフトウェアなども購入を検討している。
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