多くの霊長類は階層性のある社会構造を持ち、行動が相互に影響し合う環境に生きている。そのなかで適切な意思決定をするために必要な、種を越えて共通する神経基盤はいまだ全容が不明である。本研究では自己と他者に対して報酬や罰が与えられる社会的関係において、適切にふるまうための霊長類に共通する神経回路を明らかにするため、ヒトおよびマカクザルの被験体を用いて同一パラダイムの行動課題を行わせ、行動・生体データ解析および神経活動操作によって、計算理論に基づいた学習・行動モデル推定を行い、神経ネットワークの計算機構を解明することを目指す。今年度では、社会的状況において、他者の社会的地位や他者への報酬や懲罰がどのように観察者の行動や神経活動に影響するのかを明らかにするため、複数頭のニホンザルに社会的意思決定課題を学習させ、行動履歴や眼球運動、報酬期待を反映するリッキング(パイプ舐め)などの生体データを解析した。2頭の動物を、透明ディスプレイを内蔵したタッチパネルを挟んで向かい合わせに座らせ、相手の顔が見える状態でディプレイに提示した画像刺激に従ってタッチ操作で行動選択を行う課題を学習させた。動物は自己もしくは相手への報酬(ジュース)量および懲罰(顔面への空気吹き付け)強度に関連付けられた画像刺激に従って選択を行う。また、大脳皮質下領域に対して経頭蓋集束超音波刺激を行い、fMRIデータや行動データなどを記録した。以上のデータおよび昨年度までに収集した行動データを解析することで、動物は他者の地位および過去の行動などによって行動を変化させることを示唆する結果を得た。この成果は霊長類に共通する社会的行動の神経基盤解明に貢献すると期待される。
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