脊髄小脳失調症36型(SCA36)におけるGGCCTGリピート伸長変異を発現する培養細胞モデルを作成し、伸長GGCCUGリピート転写物が形成する核酸の高次構造であるグアニン四重鎖(G-quadruplex:GQ)の病態への関与について検討を行った。GQ構造を安定化することで、伸長非翻訳リピート由来の凝集体の形成を抑制し、凝集体へ結合する種々の蛋白の動員と枯渇を抑制することによりRNAレベルの病態を改善することを目的とした。またGQ構造の安定化により、ATG開始コドンを必要としない翻訳(repeat-associated non-ATG translation: RAN翻訳)を介したdipeptide repeat proteinの産生を抑制することも期待され、RNAレベルと蛋白レベル両面の分子効果により病態抑止と改善を図ることを目的とした。 これまでにSCA36 GGCCUGリピートRNAがGQを形成し得ることを明らかにし、GQ結合性が知られているポルフィリンTMPyP4および、他のポルフィリン誘導体で臨床適用もされているsodium copper chlorophyllinおよびhemin chlorideのSCA36 RNA foci形成抑制作用および細胞毒性低下と生存率上昇作用を確認した。またSCA36とは別の非翻訳リピート伸長病であるSCA8における伸長CTG・CAGリピートの病原性に関する検討も行った。伸長SCA8 CTG・CAGリピート内にCCG・CGGの挿入を持つSCA8家系の解析から、CCG・CGG挿入は疾患の浸透率上昇と関連し、培養細胞モデルにおいてはRAN翻訳蛋白の産生と毒性を上昇させることを明らかにした。 以上の検討結果は非翻訳リピート伸長病の治療標的として、RNAレベルでの病態制御の有効性を明らかにし、今後の治療開発における重要な基礎データと考えられた。
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