研究実績の概要 |
脳虚血による神経細胞死は活性酸素種の関与や酸化脂質の蓄積が知られ、2012年に提唱された新規細胞死「フェロトーシス」に特徴が似ている。フェロトーシスは遊離鉄による脂質過酸化の連鎖により実行される細胞死で、アポトーシスをはじめとする従来の細胞死とは異なる形態を示す。 本研究では、グルタミン酸負荷で誘導される虚血性細胞死の培養細胞モデル(マウス海馬由来HT22細胞)を解析し、多価不飽和脂肪酸に酸素を添加する酵素や細胞内遊離鉄、そして脂質膜過酸化(Lipid-ROS)などが関与することを示し、多くの点で鉄依存性細胞死フェロトーシスと一致することを明らかにした。 最終年度はフェロトーシス経路の解析から新たな神経細胞保護薬の発見を果たした。まず多くのラジカル捕捉化合物がフェロトーシスを阻害することを確認し、そのうち2,2,6,6-テトラメチルピペリジンN-オキシル(TEMPO)が気体として細胞死を阻害することを発見した。TEMPOの気化成分はまたHT22細胞モデルにも効果的に作用し、神経細胞死を完全に阻害した。さらにマウスを用いて中大脳動脈永久閉塞モデルを作成し、揮発TEMPOの脳保護効果を解析したところ、TEMPO吸入投与群は脳保護薬エダラボン静注投与群と比較して優位に脳梗塞進行の抑制効果を認めた。これらの結果、ラジカル捕捉剤のTEMPOは強力に神経細胞死を抑制することが明らかとなり、TEMPOの吸入投与が脳保護療法として応用される可能性が示唆された。
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