研究課題
脱髄型ギラン・バレー症候群(GBS)の免疫標的分子は不明であるが、シュワン細胞の細胞膜に発現する蛋白質が標的抗原分子として有望であるという知見から、我々はこれまでにプロテオーム解析による検討を行い、サイトメガロウイルス(CMV)感染後の脱髄型GBS患者の血清中に、moesinに対する自己抗体の存在を示した。本研究ではその成果を推進して、脱髄型GBSの標的抗原分子を確定し、発症機序の解明を目的とした。そのために、moesin蛋白質とCMV感染細胞抗原の分子相同性を示し、さらに能動免疫により疾患モデル動物を樹立して解析することで、病態に即した新規治療法の開発を目指す。患者血清中の抗moesin抗体の測定は、これまでに、千葉大学脳神経内科で保管されるGBS 症例を対象に行ったが、CMV感染後の脱髄型GBSの症例数は少数であることから、多検体での検討が必要であった。GBSは、本邦で人口10万人に対し1.15人と非常に少ない疾患であるため、症例数を増やすには一施設だけの症例数では限界があり、Japanese GBS outcome study (JGOS)に申請して、多症例のGBS 患者の検体の提供を受け、抗moesin抗体の測定を行なった。分子相同性の解析については、抗体陽性の検体を用い、moesin蛋白質における抗体結合部位を明らかにするため、moesin蛋白質のアミノ酸配列を分割して設計した合成ペプチドに対する自己抗体の反応をみた。moesin蛋白質のアミノ酸配列上に複数の抗体認識部位がみられ、その配列のいくつかには、データベースサーチでCMV抗原との分子相同性がみられた。今後、moesin蛋白質のアミノ酸配列上の複数の抗体認識部位から、脱髄型GBSの真の免疫標的分子を絞り込むため、多検体を用いた解析を行う。
3: やや遅れている
moesin蛋白質とCMV抗原の分子相同性の解析で、自己抗体が標的とするmoesin蛋白質上のアミノ酸配列を探索したが、患者の抗体は多クローン性であり複数の配列を認識することが分かった。抗体認識配列の決定は少数例では困難であり、多検体での解析が必要となったため時間がかかり、本年度から開始予定であった疾患マウスモデルの作製が遅れた。
分子相同性による自己免疫疾患の発症機序の解明には、(1) 感染と疾患の疫学的関連、(2) 自己反応性T細胞または自己抗体の存在、(3) 微生物とヒト分子の相同性、(4) 標的分子の感作による動物モデルの樹立、の4条件を示す必要がある。これまでに(1)はCMV感染とGBSについて疫学的関連が示されており、(2)については、これまでの検討でCMV感染後発症のGBS患者血清中に抗moesin抗体が存在することを示した。今後は、(3)と(4)の証明を念頭に研究を推進する。今後は患者血清中の抗体が認識するmoesin蛋白質上のアミノ酸配列を決定し、それを抗原とした能動免疫による疾患マウスモデルの作製を行う方針である。
本年度に開始予定であった疾患マウスモデル作製の開始に遅延が生じたため。次年度に疾患マウスモデル作製の予算として用いる。
すべて 2021 2020
すべて 雑誌論文 (5件) (うち査読あり 5件、 オープンアクセス 3件) 学会発表 (3件) (うち招待講演 1件)
eNeurologicalSci
巻: 23 ページ: 100335
10.1016/j.ensci.2021.100335
Journal of Neurology, Neurosurgery & Psychiatry
巻: 91 ページ: 1189~1194
10.1136/jnnp-2020-324026
Amyotrophic Lateral Sclerosis and Frontotemporal Degeneration
巻: 22 ページ: 144~146
10.1080/21678421.2020.1797092
巻: 19 ページ: 100239
10.1016/j.ensci.2020.100239
Molecular Brain
巻: 13 ページ: 57
10.1186/s13041-020-00598-1