研究実績の概要 |
痛みは身体の異常を感知して警告信号を発信する重要な役割を果たす。しかし、痛みは様々な疾病においてQOLを著しく低下させる因子でもある。疼痛の発生メカニズム及び神経系における伝達機構は多様でありその全貌は明らかではない。我々は、痛み刺激に対する反応が著しく低下しているBACトランスジェニックマウス(以下、TGマウス)の順遺伝学的解析から疼痛原因遺伝子の同定とその機能解析を行なった。 我々が疼痛鈍麻の表現型を見出したTGマウスはBACトランスジーンの挿入によって、その領域の内在性の遺伝子の発現を阻害または変動させ、その結果生じる遺伝子(Sorting nexin、以下Snx)の発現低下により、疼痛刺激に対する行動変化が起きたことを明らかにした。Snx ノックアウト(KO)マウスもTGマウスと同様に機械刺激および化学刺激に対する反応が著しく低下した。さらに、疼痛発生時に機能が亢進する疼痛関連因子(TRPV1, Nav1.7, P2X3, Trk等)の発現を調べた結果、Snx-KOマウスではDRGにおけるこれらの発現が著しく低下していることを見出した。 我々はこれまで、TGマウスおよびSnx-KOマウスにおいて化学刺激(5% ホルマリンを後肢皮膚にinjection)後の末梢マクロファージでサイトカインやケモカイン発現量が減少していることを見出している。そこで、マクロファージにおけるSnxの機能を詳細に調べるため、Cx3cr1-CreERT2マウスを用いてマクロファージ特異的にSnxをKOしたconditional-KOマウスを作製して疼痛行動を解析した。conditional-KOマウスで機械刺激・化学刺激に対する痛み行動が減弱したことから、マクロファージにおけるSnxが痛覚において重要であることが明らかになった。
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