研究課題/領域番号 |
19K07829
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研究機関 | 慶應義塾大学 |
研究代表者 |
石井 聖二 慶應義塾大学, 医学部(信濃町), 特任講師 (50468493)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | 一次繊毛 / 大脳皮質 / 樹状突起 / アルコール曝露 / 環境ストレス |
研究実績の概要 |
研究代表者は、一次繊毛欠損マウスを用いて、細胞に生えた「毛」のように見える一次繊毛が環境ストレスから新生児の大脳皮質を保護する役割があること、またその詳細なメカニズムの解明を行ってきた。 生物は、人体への健康の影響が懸念される化学物質などの環境汚染物質や、感染症を引き起こすウイルスや細菌など、さまざまな危険にさらされて生きている。このような生物にとって好ましくない外的要因は「環境ストレス」と呼ばれる。生後早い時期の、経験に応じて神経ネットワークが柔軟に変化する時期である「臨界期」では、さまざまな環境ストレスに対して大脳皮質の耐性が低下する期間が存在する。そこで、研究代表者は、その期間で特に伸長する一次繊毛に着目した。 まず、研究代表者は、大脳皮質でのみ一次繊毛を欠損するマウスを作製し、臨界期中に環境ストレスを与えたところ、斑点状の活性型カスパーゼ3が、特に大脳皮質の第5層の神経細胞に多数検出されることを見出した。そこで、研究代表者は、環境ストレスを与えた一次繊毛欠損マウスの大脳皮質の第5層神経細胞を詳細に調べたところ、神経細胞数は減少していない一方、樹状突起の長さや分岐数が減少し、変性が見られることを明らかにした。次に、一次繊毛に依存して活性化される、環境ストレス応答性の細胞内シグナル伝達経路の探索を行い、活性型インスリン様成長因子1(IGF1)受容体が大脳皮質の神経細胞の一次繊毛膜上に集積し、PI3K/Aktシグナル伝達経路が活性化されていることを発見した。さらに、Aktタンパク質を活性化する薬剤をアルコールと同時に一次繊毛欠損マウスに投与すると、大脳皮質の樹状突起の変性を回復できることを発見した。以上から、臨界期以降の大脳皮質の神経細胞は、一次繊毛を起点とした環境ストレスへの耐性機構を獲得していることが考えられた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
2020年度の前半は、新型コロナウイルスの感染の拡大に伴う、緊急事態宣言が発令されたこともあり、研究室における研究活動の制限を余儀なくされた。その後、研究活動を再開できたものの、研究計画の遅れを取り戻すまでには至っていない。その中でも、緊急事態宣言中に本研究計画に関する論文投稿作業を進め、この研究成果は、学術科学雑誌『Proceedings of the National Academy of Sciences of the United States of America (米国科学アカデミー紀要)』の2021年1月5日号(米国東部時間EST)に掲載されたことから、現在までの進捗状況については及第点には達していると考えている。
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今後の研究の推進方策 |
既に発表した米国科学アカデミー紀要誌の論文において、研究代表者は、臨界期中に環境ストレスを与えた一次繊毛欠損マウスの大脳皮質の第5層神経細胞を調べたところ、斑点状の活性型カスパーゼ3が、特に大脳皮質の第5層の神経細胞に多数検出されることを見出し、さらにIGF1受容体が大脳皮質の神経細胞の一次繊毛膜上に集積し、PI3K/Aktシグナル伝達経路が活性化されていることを明らかにした。一方で、臨界期中に環境ストレスを与えた一次繊毛欠損マウスの大脳皮質の第2層神経細胞においても、斑点状の活性型カスパーゼ3が多数検出されることを見出している。研究代表者は、IGF1受容体が大脳皮質の第5層の神経細胞の一次繊毛膜上に集積し、PI3K/Aktシグナル伝達経路が活性化されていることを明らかにしているが、IGF1受容体が大脳皮質の第2層の神経細胞の一次繊毛膜上に集積していないことも確認している。従って、第5層において発現しているIGF1受容体を第2層に運搬する何らかのシステムが想定される。近年、一次繊毛の先端が千切れて細胞の外に放出される現象が発見され、細胞の外に放出された毛の先端部分に含まれているタンパク質を高精度に検出する方法を確立されている(Phua S.C. et al, Cell, 2017)。そこで、研究代表者は、このようなタンパク質を含む細胞外小胞(Extracellular Vesicles; EV)を抽出する実験系の立ち上げを行い、本研究計画においてEVがどのように関与している可能性があるのかについて検証する。
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次年度使用額が生じた理由 |
新型コロナウィルスの感染拡大に伴う研究計画の遅延により、次年度の実験計画のために、今年度分に使用予定の物品費を、来年度分に計上する必要があったため。
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