2021年に発表した米国科学アカデミー紀要誌の論文において、研究代表者は、生後7日目に環境ストレスを与えた一次繊毛欠損マウスの大脳皮質の第5層神経細胞を調べたところ、斑点状の活性型カスパーゼ3が、特に大脳皮質の第5層の神経細胞に多数検出されることを見出し、さらにIGF-1受容体が大脳皮質の神経細胞の一次繊毛膜上に集積し、PI3K/Aktシグナル伝達経路が活性化されていることを明らかにした。一方で、生後7日目に環境ストレスを与えた一次繊毛欠損マウスの大脳皮質の第2/3層神経細胞においても、斑点状の活性型カスパーゼ3が多数検出されることを見出している。研究代表者は、IGF-1受容体が大脳皮質の第5層の神経細胞の一次繊毛膜上に集積し、PI3K/Aktシグナル伝達経路が活性化されていることを明らかにしているが、IGF-1受容体が大脳皮質の第2層の神経細胞の一次繊毛膜上に集積していないことも確認している。従って、第5層において発現しているIGF-1受容体を第2層に運搬する何らかのシステムが想定される。近年、一次繊毛の先端が千切れて細胞の外に放出される現象が発見され、細胞の外に放出された毛の先端部分に含まれているタンパク質を高精度に検出する方法が確立されている。一次繊毛から放出される小胞のみを解析する手法として、繊毛を持つ細胞と持たない細胞、それぞれの培養上清からEVを超遠心法で回収することが考えられたが、生後7日目の大脳皮質の神経細胞を培養することは技術的に容易ではないため、生後の大脳皮質からEVを回収することに難渋すると考えられた。そこで、研究代表者は、胎生14日目大脳皮質由来神経細胞を用いて培養上清を回収し、超遠心法により胎生期大脳皮質由来の培養神経細胞から細胞外小胞(Extracellular Vesicles; EV)を抽出する実験系を構築することに成功した。
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