研究課題/領域番号 |
19K07831
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研究機関 | 国立研究開発法人理化学研究所 |
研究代表者 |
福原 武志 国立研究開発法人理化学研究所, 脳神経科学研究センター, 研究員 (20359673)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | パーキンソン病 / 老化 / 血管 |
研究実績の概要 |
当該研究は、血管を標的とした機能性抗体の探索を基盤として、老化マウスやパーキンソン病遺伝子PARK2ノックアウトマウスにおける血管系の解析を検討課題として開始した。若年、中年、および老化コホートの作成を行い、サンプリングと解析を行なった。約27ヶ月程度までの観察において、生存や運動異常等の異常な表現型は特別に観察されなかった。少数の高齢マウスの視床領域に腫瘍形成が見られたが、老化による表現型の一つと考えられた。RNA-seq解析により野生型とPARK2ノックアウトに発現差を示す遺伝子は、平均27ヶ月齢のコホートにのみごく少数同定された。また老化に伴い発現差を示す遺伝子も同定した。既報からPARK2変異マウスに関して報告されたミトコンドリア障害に伴う炎症マーカーが想定されたが、急性炎症応答を観察したものであり加齢やPD病態の発症メカニズムを理解するには十分ではない可能性があった。また2019年にWyss-Corayらは1細胞解析により、老化脳のマイクログリアに発現するCD22が貪食を抑制する分子として知見を報告し、老化およびアルツハイマー病モデル動物における神経免疫学的なメカニズムの一端を明らかにした。この知見がPD病態へ外挿して解釈できるかRNA-seq解析の結果では不明であった。一方で、PD病態において老化した線条体領域の脳血管を介して末梢ミエロイド系細胞が浸潤するメカニズムは依然として不明である。PD病態では、これまでCTやMRIによる血管における病変が特長とされないので、より精度の高い解析が必要と考えている。2020年10月より理化学研究所脳神経科学研究センター神経変性疾患連携研究チームへ異動してラボを立ち上げたが、様々な事情により2022年3月までにマウスの搬送はできず、二拠点での研究を推進したが当初計画が履行できないため、課題の期間延長を行なった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
当該研究は、血管を標的とした機能性抗体の探索を基盤として、老化マウスやパーキンソン病遺伝子PARK2ノックアウトマウスにおける血管系の解析を検討課題として開始した。若年、中年、および老化コホートの作成を行い、サンプリングと解析を行なった。2021年度は、トランスクリプトーム解析を行なった。脳領域を4つに区分し線条体を含む領域を解析した。野生型またはPARK2欠損の遺伝背景で、平均16または27ヶ月齢の合計4群(各群3匹)からなるコホートを形成して解析を行なった。コホート形成の過程において、特定の遺伝型や月齢における特長的な異常は検討した限り観察されなかった。16ヶ月齢の線条体領域は、遺伝型の違いによる遺伝子発現差を示さないと結論した。16ヶ月齢と27ヶ月齢のコホートを比較し加齢に伴う発現変動を示す遺伝子は少数だが確認された。特に補体遺伝子の上昇は顕著であった。PARK2欠損の遺伝的背景においては、特定遺伝子の発現変化がより助長されると考えられる結果を得た。考察として、より加齢速度が早いと解釈することも可能と考えられた。さらにアストロサイトマーカーGFAPの発現変化が顕著であることを確認した。また血管やマイクログリアをソーティングするためCD31またはCD11b磁性ビーズを利用した全脳からのバルクソーティングを行う系も確立した。昨年度の報告と同様に、運動異常などは目視で観察されないため、平時のマウスについて解析を行うには脳領域が定まらない。ロテノンを経口投与したマウスのコホートを作成し部分的に解析を進めた。病理学的解析により小脳領域にグリア細胞マーカーの発現変化があると見られたが、定量的な解析が必要である。独自に樹立した抗血管抗体のうち、PDモデル細胞の染色性を検討したところ、薬剤投与モデルに抗体反応性が変化するものがあり、詳細を解析している。
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今後の研究の推進方策 |
PARK2ノックアウトマウスのRNA-seq解析では、アストロサイトに変化が見られたためOS3細胞株を入手し遺伝子発現と機能解析を計画するとともに、in vivoから細胞ソーティングを検討する。加齢に伴い変化したマーカーについて、当該遺伝子に対する市販の抗体を入手して病理組織学的解析が進行中であるが、染色性に乏しく、さらなる条件検討が必要である。必要に応じてin situ hybridization実験を計画する。またRNA-seq解析コホートの半脳は、病理解析用に保存しているので脳切片を作成して病理組織学的に解析し、トランスクリプトームデータとの整合性を検討する予定である。異動後、SNCA組換えタンパク質の精製と凝集体作成する系も確立し、機関による動物実験計画の承認許可等を得たので、SNCA凝集体を投与したPDモデル(Okuzumi et al., 2018 )を活用する。in vivoから細胞をソーティング後にトランスクリプトーム解析を行い、細胞種特異的な遺伝子発現変化を解析するのが良いと考えられたので、これを推進する。また市販および独自に樹立した様々な抗血管内皮抗体を利用して、PDモデルを作成する際に利用される化合物(MPP+, Rotenone, 6-OHDA)を添加することで抗体反応性が変化するか、血管内皮細胞株を利用した包括的な解析を行なった。その結果、パーキンソン症候群を動物モデルで作成する際に利用される6-OHDA(ドーパミンおよびノルアドレナリンの再取り込み輸送体により神経細胞に障害を与える)を投与した場合、独自に樹立した抗血管内皮細胞抗体(モノクローナル抗体)のうち一つが、大きな変化を示すことを確認した。今後、当該抗体の抗原を決定するとともにin vivoマウス標本を利用した病理組織学的解析を行い、6-OHDA投与に対する応答性を確認する。
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次年度使用額が生じた理由 |
2020年10月より理化学研究所脳神経科学研究センター神経変性疾患連携研究チームへ異動してラボを立ち上げたが、順天堂大学と理化学研究所の2拠点で研究を推進している。研究室の改装および整備や脳中央棟の大規模工事などが行なわれていたため、各種実験計画書(組換えDNA実験、動物実験、微生物実験)の承認などに時間がかかるなどしたため、様々な事情により2022年3月までにマウスの搬送はできず、二拠点での研究を推進したが当初計画が履行できないため、課題の期間延長を行なった。残額は消耗品としてトランスクリプトーム解析ならびにその機能解析等に利用する。 当該研究は、血管を標的とした機能性抗体の探索を基盤として、老化マウスやパーキンソン病遺伝子PARK2ノックアウトマウスにおける血管系の解析を検討課題として開始した。若年、中年、および老化コホートの作成を行い、サンプリングと解析を行なった。約27ヶ月程度までの観察において、生存や運動異常等の異常な表現型は特別に観察されなかった。少数の高齢マウスの視床領域に腫瘍形成が見られたが、老化による表現型の一つと考えられた。RNA-seq解析により野生型とPARK2ノックアウトに発現差を示す遺伝子は、平均27ヶ月齢のコホートにのみごく少数同定された。また老化に伴い発現差を示す遺伝子も同定した。
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