研究課題
アルツハイマー病(AD)では、アミロイドβ蛋白(Aβ)蓄積機構の解明が重要な課題となっている。我々は、血圧調節に重要なアンギオテンシン変換酵素(ACE)が、強毒性のAβ42を神経保護作用をもつAβ40に変換する活性を有すること、また、ACEに加えてACE2がより強毒性のAβ43をAβ40に変換することをin vitroの実験で明らかにした。本研究では、RA系の鍵分子であるACEとAD分子病態との関連をADモデルマウスを使用し、ACEのAD分子病態(特Aβ蓄積)に果たす役割を解析した。また、正常者、ACE阻害剤の服薬患者およびACE阻害剤以外の降圧剤服薬患者の8年間の知能指数の変化を推定した。ACE阻害剤のカプトプリルを低濃度(low captopril)と高濃度(high captopril)を二種類の投与をAPPtgマウスへ11カ月間連続投与し、17カ月齢マウス脳内のアミロイド沈着をthioflavin S 染色で検討した。加齢対照群マウスの海馬および大脳皮質にアミロイド沈着が検出されたが、過剰用量のカプトプリルがAPPtgマウスの海馬および大脳皮質のアミロイド沈着を顕著に増強した。さらに、臨床に応用されている用量においても、アミロイド沈着の増強が認められた。これらの結果から、ACE抑制が脳内アミロイド沈着を促進することが示唆された。疫学調査ではACE阻害剤の服薬群は、ACE阻害剤以外の降圧剤服薬群と比べ、知能指数は有意に低下した。しかし、この低下は男性に限っており、女性に見られなかった。また、我々は、アンギオテンシンII受容体タイプIがAβ産生を促進することを明らかし、その作用機序には、β2アドレナリン受容体が関与していることを明らかにした。
2: おおむね順調に進展している
我々は、アンギオテンシンII受容体タイプIがAβ産生を促進する作用機序には、β2アドレナリン受容体が関与していることを明らかにした。β2アドレナリン受容体選択的ブロッカーICI-118551が、アンギオテンシンIIタイプI受容体活性化によるAβ産生上昇を顕著に阻害した。さらに、我々は、プレセニリン欠損細胞では、ACEの糖鎖修飾異常およびAβ変換活性の異常を見出し、プレセニリン変異によるAβ42/40比の上昇機序の解明が期待できる。
我々は、Aβ変換活性とangiotensin変換活性がACEの異なるドメインにそれぞれ存在することを発見した。プレセニリン欠損および変異がACEのそれぞれのドメインの糖鎖修飾やAβ変換活性とangiotensin変換活性にどのような影響を与えるのかを明らかにする予定である。
ACEのアンギオテンシン変換活性キットおよびAβ変換活性解析試薬は次年度購入する必要が生じたため。
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