本研究課題では、”すでに発症している”進行性認知症の重篤化を抑制可能な薬剤の開発を目指し、既存医薬品リファンピシンの有する抗認知症薬効が、認知症の進行機序である「tau病理の脳内伝播」を抑制できる可能性について検証した。初年度~2年目には、マウス脳の片側海馬へAD患者脳抽出物を注入することで、6ヶ月後に脳全域でのtau病理拡大とそれに伴う認知機能障害を呈する”tau病理伝播マウスモデル”の作製に成功し、このモデルマウスへのリファンピシン投与によって、tau病理の拡大と認知機能障害が抑制されたことを示した。3年目の最終年度においては、tau病理およびそれに付随する周辺病理とリファンピシンの効果について、より詳細な検証を行った。
まずは、本モデルマウスに見られる神経細胞内のリン酸化tau蓄積およびtau oligomers蓄積について、左右海馬のみでなく他領域についても検証を行い、operation部位より前方の大脳皮質、そしてさらに前方の前頭葉から、後方の嗅内皮質にかけて広範囲にわたって拡大していることを確認した。さらにガリアス銀染色によってこれらtau蓄積が神経原線維変化を形成していることを確認した。および、この神経原線維変化形成が神経突起内のtauを消失させ、神経細胞細胞体へと異常局在させていることが観察された。これらのtau病理は、シナプス消失に加え、炎症性のミクログリア増加と神経脱落も引き起こしていた。そしてこれらの神経病理はリファンピシンの投与によっていずれも抑制された。さらに生化学解析によって、operationに用いたAD患者脳抽出物に見られる特徴的なtau oligomersが、本モデルマウス脳からも同様に検出され、これがリファンピシンによって消失したことが確認された。
以上の研究成果をまとめ、論文として投稿し、査読をへて受理、公表された。
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