研究課題/領域番号 |
19K07852
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研究機関 | 中部大学 |
研究代表者 |
佐藤 純 中部大学, 生命健康科学部, 教授 (00235350)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | 気象関連痛 / 内耳 / 前庭神経節細胞 / TRPVチャネル |
研究実績の概要 |
<目的>気象関連痛に関与する気圧センシングメカニズムを明らかにする実験を行ってきた。本科研費研究2019年度には、前庭神経系の2次ニューロンである上前庭神経核細胞が気圧変化に興奮し、内耳に気圧センシング装置が存在する可能性を明らかにした。2020年度はチャネルを同定するため、浸透圧受容チャネル(TRPV4)を欠損したマウスを低気圧暴露し、上前庭神経核細胞の応答性を観察した。結果として、メスの TRPV4欠損マウスでは、健常マウスと異なり c-Fos 陽性細胞数に変化が無かった(すなわち神経細胞の興奮が消失した)。そこで本年度は(実験1)機械受容チャネル (TRPV1)欠損マウスを低気圧暴露して細胞の応答性を観察した。(実験2)前庭神経系の1次ニューロン(前庭神経節細胞)の興奮性を観察した。
<方法>(実験1)気圧調整装置を用いて、TRPV1欠損マウス(オス8、メス9)に対し10分で1013hPaから973 hPa まで減圧し30分後に復圧した。対照群マウス(オス8、メス9)は減圧せず1013 hPa 環境下においた。復圧70分後、4%パラホルムアルデヒド灌流固定し、脳の凍結切片から前庭神経核のc-Fosを免疫染色し、シグナル陽性細胞数をカウントした。(実験2)EDTAによる脱灰標本を用いて、 抗c-Fos抗体(と抗ARK抗体)を用いて前庭神経節細胞を免疫染色した。
<結果>(実験1)TRPV1欠損マウスでは、両性ともに c-Fos 陽性細胞数が増加しなかった。気圧センサーにTRPV1が関与する可能性を明らかにした。(実験2)マウスを回転台に乗せ前庭系刺激で興奮させたのち、脱灰標本を作製し前庭神経節細胞のc-Fosシグナルを観察した。抗c-Fos抗体の濃度を変更するなどしたがc-Fos陽性の細胞像が全く見られなかった。そこで抗ARK抗体で染色したところ、シグナル増強を観察できた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
コロナ感染禍の状況で実験の進行が大幅に遅れた。今期後半になって、自家繁殖でTRPV1-KOマウスの十分な動物数を確保できたため、急ピッチで実験を行い、上記のような実験結果を得ることに成功した。内耳の気圧センシングシステムに、TRPV1が関与する可能性が高いことが明らかになったのは特筆すべき結果である。 また、この実験と並行して、前庭神経系の1次ニューロンである前庭神経節細胞でのc-fos陽性細胞数カウントを試みる実験を行ってきた。この実験の問題点として、まず、側頭骨を脱灰して切片標本を作製するステップに思いのほか時間を要した。また当初、2次ニューロン(前庭神経核細胞)では染色に成功した抗c-Fos抗体を用いたところ、前庭神経節細胞では思うような染色結果が得られなかった。製造会社、ロット、濃度等の変更を行い、何度もトライする必要があり、多くの時間を要してしまった。これまでにマウス前庭神経節細胞で抗c-Fos抗体を用いた染色を成功した論文が見当たらないことから、このネガティブ結果も、発表に値するものと考えているので論文化を検討する。試行錯誤の結果、抗ARK抗体を用いることで良好な染色結果を得られたので、現在はこの抗体を用いて、低気圧暴露実験を進めている段階である。
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今後の研究の推進方策 |
上記のように,当初計画どおりTRPV1欠損マウスを用いた暴露実験を完了することができた。結果として、両性マウスにおいて、センシングシステムにTRPV1が関与する可能性を示すことができた。一方、TRPV4については、メスにおいてのみ内耳のセンシングシステムに関与を疑わせる結果が得られたので、この差がなぜ現れたのか今後検討してゆく。また、内耳からの一次ニューロンである前庭神経節細胞でのc-Fosカウントについては、染色が思うような結果にならなかったため、セカンドチョイスとして準備していた方法(抗ERK抗体を用いた染色法)を用いることで、良好な染色性を確保できた。現在はこの抗体を用いて、低気圧暴露実験を進めているところである。
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次年度使用額が生じた理由 |
前庭神経系の1次ニューロンである前庭神経節細胞でのc-fos陽性細胞数カウントを試みる実験を行ってきた。この実験の問題点として、まず、側頭骨を脱灰して切片標本を作製するステップに思いのほか時間を要した。また当初、2次ニューロン(前庭神経核細胞)では染色に成功した抗c-Fos抗体を用いたところ、前庭神経節細胞では思うような染色結果が得られなかった。製造会社、ロット、濃度等の変更を行い、何度もトライする必要があり、多くの時間を要してしまい、期限内に研究計画を完了することができなかった。試行錯誤の結果、抗ARK抗体を用いれば良好な染色結果を得られたので、現在はこの抗体を用いて低気圧暴露実験を進めている段階である。次年度はこの実験を完成させる計画である。
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