研究課題/領域番号 |
19K07855
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研究機関 | 関西医科大学 |
研究代表者 |
西田 和彦 関西医科大学, 医学部, 助教 (80448026)
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研究分担者 |
寿野 良二 関西医科大学, 医学部, 講師 (60447521)
片野 泰代 関西医科大学, 医学部, 准教授 (60469244)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | 内臓痛 / 脊髄後角 / 神経回路 |
研究実績の概要 |
内臓痛は体性痛と同様に我々に身近な疼痛であるにもかかわらず、その伝達に関与する脊髄内神経回路の実体は明らかとなっていない。本研究では脊髄後角に存在する多様な神経細胞のうち、内臓痛がどのような神経細胞集団を介して伝達されるのかの理解を目的とする。 2019年度はまず第一に、デキストラン硫酸ナトリウム(DSS)の飲水投与により誘導される潰瘍性大腸炎モデルを構築し、このモデルマウスの脊髄での神経活動をc-fos蛋白質の発現解析を指標に調べた。抗c-fos抗体による免疫染色の結果、モデルマウスでのc-fosの発現は吻尾軸方向には第六腰髄、第一仙髄をピークとして分布していた。一方、背腹軸方向には両側の脊髄後角のI層と深層に多く分布していたが、このパターンは体性感覚刺激に応答するc-fosの発現パターンとは異なるものであった。現在はこれらc-fos陽性細胞の同定を、各種神経細胞のマーカーの免疫染色、およびin situハイブリダイゼーションを用いて行っている。 第二に、今後、特定の脊髄後角ニューロンの神経活動を抑制した際の内臓痛伝達の有無を解析する足掛かりとして、上記モデルマウスにおける疼痛行動を観察した。その結果、DSS飲水投与マウスはコントロールマウスに比べてお腹をなめる行動、ジャンプ行動が有意に増加することが明らかとなった。 第三に内臓痛刺激により神経活動が亢進するニューロンに顕著に発現する分子のコンディショナルKOマウスを用いて表現型の解析を進め、現在もこの解析を継続して行っている。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
当初の予定であった内臓痛モデルマウスの系を構築することができ、脊髄後角における特異的な神経活動パターンをc-fosの発現により解析する系が確立された。また、内臓痛特異的に応答する脊髄後角神経細胞の存在が示唆され、遺伝子改変マウス等を用いたこれらニューロンの機能阻害実験への道筋が得られた。さらに、このモデルマウスでの特異的な疼痛応答行動を明らかにし、将来的な解析の足掛かりを作った。
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今後の研究の推進方策 |
第一に、2019年度に構築した内臓痛モデルマウス、および皮膚に侵害性刺激を加えたコントロールマウスそれぞれの脊髄におけるc-fos発現分布の比較を元に、内臓痛特異的c-fos陽性細胞の同定を行う。特に脊髄後角のI層のc-fos陽性細胞がどのような分子マーカーで標識されるか、c-fos陽性細胞と軸索の長さに何らかの相関は見られるのかに着目する。後者の解析は逆行性軸索トレーサーCTBの注入により行う。 第二に、内臓痛に特異的に応答するニューロンのマーカーを指標に、この神経細胞集団の機能の特異的な阻害系を構築する。これらのマーカー特異的にCreを発現するマウス(購入予定)にCre-loxPシステムにより抑制性DREADDを発現するアデノ随伴ウイルス(現有)を導入する系の確立を目指す。 第三に、内臓痛に応答する神経活動の分布をin vivoカルシウムイメージングにより解析する。c-fosの発現は必ずしもすべてのニューロンの神経活動を反映しているとは限らない。したがって、この解析によりin vivoでの神経活動の詳細の理解につながると考えられる。子宮内電気穿孔法によるカルシウムインディケーター遺伝子の脊髄後角への導入、in vivoイメージングの系はすでに確立されており、これらの手法を内臓痛モデルに適用する。 第四に、上記の慢性的な内臓痛モデルに加えて、急性の内臓痛モデルの確立を目指す。慢性痛では長期的、二次的な脊髄後角の神経活動の亢進が想定されるが、急性モデルではこの影響が排除される利点がある。カプサイシンまたはマスタードオイルの大腸への注入を行い、脊髄後角における神経活動、疼痛応答行動を大腸炎モデルの場合と同様に解析する。
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次年度使用額が生じた理由 |
当初予定していた遺伝子改変マウスの購入が2019年度には行えなかった。2020年度には、当初の研究計画に加えて、2019年度の予算に組み込まれていた遺伝子改変マウスの購入を行う予定である。
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