内臓痛は、痛みの局在が不明確、関連痛を伴うなど、体性痛にはない独自の特徴を持つ。これらの特徴は内臓痛に特有の脊髄後角神経回路の存在を示唆している。しかしながら、内臓痛が脊髄後角ニューロンのどのような神経サブタイプを介して伝達されているかは不明である。 そこで、本研究ではDSS飲水投与による潰瘍性大腸炎モデルマウスを用いて、内臓痛を伝達する脊髄後角ニューロンのサブタイプの解明を目指した。大腸炎モデルマウスの脊髄後角では、コントロールマウスに比べてc-fos陽性ニューロン(神経活動の指標)の数が顕著に増加していた。c-fos陽性ニューロンは第6腰髄から第1仙髄にかけての領域に分布しており、これは潰瘍性大腸炎で障害が起こる遠位大腸の脊髄感覚入力部位と一致していた。次にこれらのc-fos陽性ニューロンがどのような神経サブタイプに多く認められるかを調べるために各種マーカーを用いた免疫二重染色を行った。その結果、c-fos陽性ニューロンは転写因子Brn3a陽性ニューロンを多く含むことが明らかとなった。c-fos陽性ニューロン中のBrn3a陽性率は体性痛刺激では高くなかったことから、Brn3a陽性ニューロンが内臓痛刺激の伝達に多く利用されている可能性が示唆された。 さらに、本研究ではBrn3aがBrn3a陽性ニューロンの発生にどのように関与するかについても併せて調べた。Brn3aをノックアウトしたニューロンにおいては、これらのニューロンの脊髄後角での正常な局在が阻害された。一方、脊髄後角ニューロンにBrn3aを過剰発現させると、Brn3a陽性ニューロン様な細胞体の局在性、軸索伸長が認められた。これらの結果よりBrn3aは胎生期においてBrn3a陽性ニューロンの発生に重要な役割を果たしており、さらには内臓痛の脊髄内伝達の基盤になる可能性が示唆された。
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