緑内障や水頭症において病的内圧上昇は神経変性の一因と考えられているが、汎用性や再現性の高い神経病態モデルが少ないため実験的証明が困難であり、分子機序は未だ解明されていない。本研究は緑内障における眼圧上昇と網膜神経節細胞変性との因果関係を明確にし、その病態形成の分子基盤を解析することを目的とする。方法として申請者らが独自に開発した細胞培養加圧装置を用いて圧上昇と神経節細胞変性との相関解析を行い、申請者らによる先行研究に基づいて着想した2つの仮説:神経接着分子Cell adhesion molecule 1 (CADM1)の酵素的切断産物の蓄積による神経軸索変性;鉄イオン制御分子Lipocalin 2 (LCN2)の発現上昇による神経細胞死誘導を検証する。前年度においてLCN2と網膜変性に関する研究計画はほぼ完了したため、本年度はもう一つの仮説の検証を重点的に実施した。CADM1の酵素的切断産物のモデルペプチドを用いてその物性を検証したところ、凝集し易い構造変化を起こすことが判明した。現在はこの構造変化が細胞培養加圧装置を用いて加圧した細胞においても見られるか、分析法の確立を目指している。更に当該構造変化をもたらす酵素活性などを検証することによって、内圧上昇による細胞内変化を同定していく予定である。本研究が達成されれば、内圧上昇による神経変性誘導機構において、蛋白質の構造変化という新たな視点をもたらす点が重要である。他方で、LCN2による神経変性機構は、緑内障の新規治療薬開発につながる可能性が高く、臨床応用が期待される。
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