前年度までに、セリン/スレオニンキナーゼの一種であるCasein kinaseⅡ(CK2、前年度までは酵素Xと表記)がα-シヌクレイン(αSyn)の129番セリン(S129)及び136番チロシン(Y136、前年度まではアミノ酸Yと表記)をリン酸化することを報告した。 本年度はまず、RT-QuICハイスループット解析においてプリオン様伝播性を示す異常型r-αSynの探索を試みた。非撹拌条件下でアモルファス様に凝集化させた野生型(WT)-r-αSynは伝播性を示さず、一方撹拌条件下でオリゴマー様に凝集化させたWT-r-αSynは伝播性を示した。WT-r-αSynオリゴマーをヒト神経芽細胞腫SH-SY5Y細胞に暴露した細胞モデルでは、内在性αSynの凝集化が起こりプリオン様伝播性が示され、さらに凝集αSynのS129・Y136リン酸化が認められた。WT-r-αSynのY136をアラニンで置換した変異体(Y136A-r-αSyn)を使用した同様の実験では、内在性αSynの凝集化及びS129リン酸化がより顕著に示され、更なる病態の悪化が認められた。これらの結果は、細胞においてY136リン酸化はαSynのS129リン酸化及び凝集形成に対して抑制的に働くことを示唆する。細胞モデルにおいて、CK2阻害剤(TBB)は濃度依存的に有意なS129リン酸化の減弱を示し、CK2が細胞モデルにおいてもS129をリン酸化する酵素であることが示唆され、さらに内在性αSyn凝集の抑制もまた認められたことから、TBBは異常型αSynの伝播に対して治療効果を示すことが示唆された。TBBはS129リン酸化を減弱させたのにもかかわらず、Y136リン酸化を濃度依存的に有意に増強した。この予期もしないY136リン酸化の増強もまた、TBBの治療効果に寄与することが考えられた。
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