研究課題/領域番号 |
19K07859
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研究機関 | 公益財団法人東京都医学総合研究所 |
研究代表者 |
石田 裕昭 公益財団法人東京都医学総合研究所, 精神行動医学研究分野, 主任研究員 (70728162)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | 化学遺伝学 / 小脳視床路 / PETイメージング / マカクザル / 運動障害 / 遺伝子導入 / アデノ随伴ウイルス / ムシモル |
研究実績の概要 |
令和元年度は、2頭のサルを用いて小脳核にウイルスベクター(AAV2-hM4Di)の注入を試みたが、小脳核に正確に注入できなかった。そこで新たに2頭のサルを用い、1)頭部CT/MRI画像に基づいて小脳核に対する注入座標を精密に同定し、2)ウイルスベクターは、前回のベクターよりも遺伝子発現力が強く神経毒性は低いAAV2.1-hM4Diを導入し、小脳核に注入した。その後PETイメージング法を用い、これら2頭のサルともに小脳核とその神経投射先である視床において、DREADDが発現したことを確認した。 令和2年度は、これらのモデル動物に対し、上肢運動を遂行している際の上肢近遠位筋群の活動を記録するために筋電ワイヤ埋め込み(慢性留置)手術を実施した。さらにDREADDを作動させるための人工リガンドは、令和元年に用いたCNOに替わり、Nagai and Miyakawa et al., (2020)が開発した、デスクロロクロザピン(DCZ)を使用した。CNOに比べて即効性があり、低用量かつ低副作用と利点が多い。現在までにモデル動物に対して、DCZを全身投与(筋肉注射)した後、到達把持運動(餌取り課題)を遂行させ、行動および上肢遠位・近位部の 筋活動の変化を記録している。現在までのところ、DREADD作動時において、サルの餌取りの成功率および上肢筋群の活動に顕著な変化は認められていない。そこで2頭のうち1頭のサルに対して、DREADDを注入した小脳核内の同一座標にGABAA受容体アゴニストであるムシモルを注入し上肢運動の変化を観察したところ、このサルの運動は顕著に障害された。したがって、抑制性DREADDはムシモルと比較すると運動障害に至るほど強く作用しない可能性があるかもしれない。今後の推進方策として、DCZ投与量を増加することやウイルスベクターを追加注入することを検討している。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
PETイメージングによって、小脳核および視床にDREADDの発現が確認されたサル2個体に対し、到達把持運動(餌取り課題)中の上肢筋活動を記録するため、手術を実施した。これらの動物に対してDCZを全身投与(筋肉注射)した後、餌取りの成功率および上肢遠位・近位部の筋活動の変化を記録している。現在までのところ、DREADD作動時において、サルの餌取り成功率および上肢筋群の活動に顕著な変化は認められない。そこで、実験中の2頭のうち1頭のサルを用いてDREADDを注入した小脳核に対し同じ座標へGABAA受容体アゴニストであるムシモルを微量注入し、到達把持運動の変化を観察したところ、サルの到達把持運動は顕著に障害された。サルは餌を取りこぼすことはなかったが、手指の協調運動がぎこちなくなり、餌を取るまでの時間が長くなった。抑制性DREADDはムシモルと比較すると運動障害に至るほど強く作用しない可能性があるかもしれない。現在、この原因を検討している。上記、ムシモルの行動変化についてNeuroscience Researchに報告した。
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今後の研究の推進方策 |
DCZ投与量を増加することや小脳核へウイルスベクターを追加注入することを検討している。さらに、上肢運動と筋活動の記録に加えて、視床および小脳核にて神経活動を記録し、抑制性DREADDの効果(神経活動の抑制)を検証する。引き続き、動物に対してDCZを全身投与(筋肉注射)した後、到達把持運動(餌取り課題)を遂行させ、餌取りの成功率および上肢遠位・近位部の筋活動の変化を記録する。DCZの投与前後で視床あるいは小脳核の神経活動を記録し変化を検証する。
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次年度使用額が生じた理由 |
コロナ禍のため旅費の執行がなかった。一方で、ヒストロジー関連試薬(DREADD用のGFP抗体等)が計画を前倒しにして必要になったため。残高は抗体等の費用に当てる。
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