行動下のマカクザルの小脳歯状核に人工受容体DREADDを発現させ、歯状核から視床および赤核に出力される神経経路の活動を選択的に抑制する操作技術の開発を目的とした。R1年度の操作実験はうまく行かなかったため、R2年度に本実験系の抜本的な技術的修正を行った。R3年はR2年度に確立した新しい手法を用い、DCZを全身投与(筋注)した後、到達 把持運動(餌取り課題)を遂行させ、行動および上肢遠位・近位部の筋活動の変化を記録した。しかし、実験を繰り返してもDREADD作動時において、サルの餌取りの成功率および上肢筋群の活動に顕著な変化は認められなかった。DREADDを注入した歯状核内の座標に対して、ムシモルを微量注入しサルの手指運動の変容を観察した結果、ムシモル注入の場合はサルの行動は注入なしのときよりも拙劣になった。以上の結果から、DREADDの発現量が行動の変化を起こすほど十分ではない可能性があると考え、R3年度は、1)サルに対して、DREADDの追加注入を実施し、2)PET撮像によりDREADD結合能が注入前よりも上昇したことを確認した。サルにDCZを全身投与(筋注)した後、PETで応答があった小脳歯状核あるいはその投射先の視床運動核がある座標に対して微小電極を刺入し神経活動を記録しながら、手指・上肢運動の行動および筋活動変化を記録した。しかしながら、サルの行動および筋活動は、DCZの投与前後で変化なく、神経活動においてもマルチユニットおよびシングルユニットレベルの活動に変化は認められなかった。一方で、脳摘出後のヒストロジー解析の結果は、小脳歯状核、視床および赤核に確かにDREADDは発現していた。共同研究者らと情報を共有し、本実験系が働かなかった原因を明らかにする。
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