研究課題
アルツハイマー病(Alzheimer's disease:AD)やパーキンソン病(Parkinson's disease:PD)は進行性の神経変性疾患であり、未だ根治治療法が確立されていない。本研究では神経変性疾患の“進行過程”の分子メカニズムに着目し、発症・進行後でも有効な治療法開発への応用を目指している。そこで疾患の早期病態の一つである“異常タンパク質蓄積病理の脳内伝播”の分子機構解明を目指し研究を行ってきた。ADではタウタンパク質が、PDではαシヌクレインが蓄積し、疾患の進行に伴って脳内伝播することが知られている。本研究では我々が確立したタウ伝播およびαシヌクレイン伝播モデルマウス(早期病態モデルマウス)を用いて検討を進めてきた。最終年度はタウの脳内伝播に影響する因子について検討を行った。疾患のリスクファクターである加齢、性別の影響を検討したところ、老齢マウスでは若齢マウスに比べタウ蓄積・脳内伝播の促進傾向が認められた。性差については雄雌のマウスを用いて比較検討を行っており、現在解析を進めている。タウ、αシヌクレインの脳内伝播は神経回路に沿って進行すると考えられており、軸索輸送や越シナプスにより進行すると考えられるが、老齢では多くの生理機能(軸索輸送、シナプス機能を含む)は低下すると考えられるにもかかわらず脳内伝播が促進されたことは驚くべきことであった。この結果は軸索輸送、シナプス機能以外の因子がタウ伝播に大きく影響することを示唆するものであり、新規治療標的の創出につながる知見と考えられる。今後は加齢による脳内環境変化のうちタウ蓄積・伝播に促進的に働く分子メカニズムの解析をさらに進める予定である。
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