研究課題/領域番号 |
19K07861
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研究機関 | 北海道大学 |
研究代表者 |
惠 淑萍 北海道大学, 保健科学研究院, 教授 (90337030)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | 腎症発症メカニズム / コレステリルエステル / 酸化 |
研究実績の概要 |
糖尿病性腎症は、先進国における末期腎臓病の主な原因であり、活性酸素種(ROS)が極めて重要な役割を果たすことが知られている。本研究課題は、糖尿病性腎症を、近位尿細管細胞への脂肪酸流入とコレステリルエステル(CE)蓄積を発端に始まり、ミトコンドリアを巻き込んで進行する酸化的悪性サイクルとして理解し、それを制御する手段を提案することを目的とする。 2019年度はまず、化学合成により得られた8種類CE標準物質およびそれぞれ8種類の重水素標識CEの内部標準物質を用いて、液体クロマトグラフィー質量分析定量法(LC/MS)を確立した。また、ヒト腎近位尿細管上皮細胞由来であるHK-2細胞に脂肪酸添加を行い、オレイン酸(FA18:1),リノール酸(FA18:2),アラキドン酸(FA20:4),エイコサペンタエン酸(FA20:5),およびドコサヘキサエン酸(FA22:6)添加群において脂肪滴の形成を確認した。しかし,パルミチン酸(FA16:0)添加群では脂肪滴は確認されなかった。なお、脂肪酸の添加による脂肪滴形成時のCEをLC/MS定量法により分析した。同様に不飽和脂肪酸添加群においてCEの有意な増加が確認された。 さらに、CE代謝酵素とトリグリセリド(TG)の合成系酵素を評価した。HK-2細胞(健常成人腎臓由来の近位尿細管上皮細胞株)への脂肪酸の過剰流入により、Sterol regulatory element-binding proteinの発現が低下した。HK-2細胞への脂肪酸負荷により、Diacylglycerol acyltransferaseおよびAdipose triglyceride lipaseの変化はなかった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
2019年度は、細胞実験やコレステリルエステル(CE)定量法の確立及び細胞実験を行った。当ラボではCEのLC/MS定量法に必要なCE標準物質及び市販されていなく入手困難な重水素標識の内部標準物質に関する化学合成法がすでに確立された。そのため、8種類CE標準物質および内部標準物質とされたそれぞれの重水素標識CE(8種類)をすべて化学合成により取り揃えた。それらを用いて高感度かつ特異性のあるCEを分析するLC/MS定量法が確立できて当初の計画以上に進展している。
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今後の研究の推進方策 |
2020年度はHK-2細胞を用いてミトコンドリア傷害に関する研究を行う。 ①ミトコンドリア内膜特異的なカルジオリピン(CL)のLC/MS分析法を構築する。これまでにCLの化学合成法を確立しており、LC/MS分析法に必要な標準物質等を取り揃える。 ②ミトコンドリア機能評価を行う。HK-2細胞の細胞生存能(CCK-8)、炎症・線維化(ウェスタン)、アポトーシス(フローサイトメーター)関連マーカーの発現を検討し、CE酸化やCL減少との関係を観察する。
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次年度使用額が生じた理由 |
2020年度には、細胞抗酸化実験を安定に進めるための消耗品経費が必要である。また、質量分析法を用いてコレステリルエステルなどの脂質濃度を測定するため、カラムと溶媒及び質量分析機器の機能維持に関する物品費が必要である。さらに、研究成果を学会で発表して研究者と意見交換をするため、国内外学会旅費が必要である。現時点で予定している学会は、日本臨床化学会、日本医用マス学会、AACC(米国臨床化学会)などであるが、研究の進捗に応じて変更する可能性がある。
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