研究実績の概要 |
老化肺の一病態である間質性肺炎/肺線維症は指定難病であり、病態解明に基づく新規治療法の早期開発が望まれる。我々は以前に、細胞膜スフィンゴ脂質由来の生理活性因子,スフィンゴシン-1-リン酸 (S1P)の受容体サブタイプ、S1P2が肺線維症を促進する事を報告した。本研究課題では、このS1P2が持つ肺線維症促進作用を、組織・細胞特異的条件付きS1P2欠損マウス(S1P2cKO)を用いて解明する。 本年度は1.肺線維症モデルの構築、ならびに2.S1P2cKOの作出と同腹野生型マウスとの比較検討を計画実行した。 1.これまでの検討では、臨床で経験するブレオマイシン(BLM)肺臓炎と同様に経血管的に肺へ到達する、BLM腹腔内投与による肺線維症モデル(Zhao J et al. PLoS One. 2018)を用いていた。しかし、予備実験では観察4週間の体重変化で総BLM投与量がばらつき、線維化病変も胸膜下に軽度生じるのみで、臨床病態との乖離があり比較困難と考えた。S1Pシグナル系の主な標的は血管系と免疫系であり、急性組織障害に伴う炎症応答にも強く関連していると考え、体重補正したBLM単回気管内投与による肺線維症モデルを選択した。気管軟骨切開に伴う気管支周囲の侵襲を避ける目的で、既報に従い麻酔薬投与後半伏臥位とし声帯を直視下で確認しカテーテル挿入後に確実に気管内投与した。2週間の観察期間内を生存維持できる投与量を調節し、両肺全体,特に肺底部領域にびまん性に広がる肺線維化モデルが構築できた。 2.生殖細胞系伝達を確認したS1P2 floxマウスは樹立済みのため、既報・ならびに予備実験を元に2種類の肺構成細胞特異的Creリコンビナーゼ発現マウスと掛け合わせ、C57BL/6J背景へ進行した。しかし予想外に目的マウスの確保に手間取り、同腹野生型マウスとの有意な比較検討までには至らなかった。
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