研究課題/領域番号 |
19K07870
|
研究機関 | 札幌医科大学 |
研究代表者 |
永石 歓和 札幌医科大学, 医学部, 准教授 (30544118)
|
研究分担者 |
射場 浩介 札幌医科大学, 医学部, 准教授 (60363686)
|
研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2022-03-31
|
キーワード | 骨髄間葉系幹細胞 / 糖尿病 / 骨粗鬆症 |
研究実績の概要 |
令和2年度は、OLETF2型糖尿病モデルラット(OLETF)を用いた解析を実施した。OLETFは、6週齢において既に対照群(LETO)に比較して体重や空腹時血糖が高値を示すものの、骨代謝については10カ月齢まではLETOと比較して骨皮質の菲薄化が少なく、骨量の低下は明らかでなかった。OLETFは、初期は高インスリン血症を呈し、見かけ上骨量が上昇するが、インスリン抵抗性が出現して腎機能障害や下痢等の消化器症状が出現する時期に骨量が低下し、ヒトの2型糖尿病の骨代謝を外挿するモデルとしては有益と考えられた。 腎機能障害の顕在化と体重が減少傾向に転じた11か月齢において、蛍光標識した正常ラットの骨髄由来間葉系幹細胞(BM-MSCs)を脛骨近位部に骨髄内投与した。投与した細胞は投与3日目まで局所で検出されたが、7日目では殆ど検出されなかった。細胞投与後4週間目の骨組織の病理組織学的所見から、海綿骨における骨梁の増加傾向が見られたが、骨皮質については明らかな変化が見られなかった。投与細胞の骨組織内における検出期間が想定よりも短期間であったことから、移植細胞に対する拒絶反応が一つの要因と考えられた。また、血清中の骨代謝マーカーTRACP5b, ALPについては、細胞治療による明らかな変化を認めなかった。 また、ラットの頚静脈・尾静脈経路を用いて、白血球除去媒体を内含したミニカラムを用いたサイトアフェレーシスを行った。OLETFは血管壁の脆弱性および血液の凝固傾向が強く、当初計画した30分の体外循環を実施するのは困難であった。体外循環前後における末梢血白血球分画、血小板数は明らかな変化を認めず、炎症性サイトカインの発現も個体間変動が大きい傾向を示した。循環時間の短縮と血液凝固傾向により、活性化した白血球の除去効果が不十分であった可能性が考えらえた。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
新型コロナウイルスの感染拡大により、動物実験を含めた研究活動が制限され、研究実施期間の前半期は動物実験や細胞を用いた実験を当初の計画に沿って進めることが困難であった。研究期間の後半において、2型糖尿病モデル動物の骨髄内MSC投与およびサイトアフェレーシス療法の介入を行ったが、動物モデルの骨病変の病態確立および評価までに長期間を有したことから、投与条件の検討や解析できた個体数が当初の予定の約50%程度に留まった。一方、in vitroにおける誘導破骨細胞とMSCの接触・非接触共培養による細胞治療の有効性機序解析は予定通りに実施した。 治療介入したOLETFの骨組織について、投与した細胞の局在や細胞の検出期間、骨皮質・骨梁の組織学的変化、破骨細胞関連因子、炎症性サイトカインの発現を検討した。細胞治療について、脛骨への単回投与では明らかな骨量や骨密度の変化は得られず、今後細胞量や投与部位等の検討を追加する必要がある。 また、OLETFにおけるサイトアフェレーシスについて、明らかな骨量の低下を伴う病態が著しく進行したモデルでは、血管や周囲組織の脆弱性により安定的・持続的な体外循環が困難で、プロトコールの確立が当初の予定よりも遅れた。抗凝固剤の変更や増量等、条件変更の検討に時間を要したことから、進捗は予定よりもやや遅れている。
|
今後の研究の推進方策 |
次年度は、自施設の動物実験施設が新設され、飼育環境や感染対策も改善・充実することから、研究を加速する。 サイトアフェレーシスによる全身的な炎症制御による体内環境の改善とMSCの骨髄内投与による骨量や骨代謝バランスの改善について、各々の有効性およびその相乗効果について明らかにする必要がある。これを達成するために、各々の病態モデルにおける介入時期を再検討する。 OLETFは病態形成には長期間を要するが、末梢血中の炎症性サイトカイン量や白血球増加が明らかであることから、サイトアフェレーシス療法の効果を評価する上で有用である。従って、糖尿病モデル動物において有意に骨密度低下を認める進行期を標的とした細胞投与や治療介入に限定せず、より早期の軽症から中等症モデルに対する予防的治療・介入を含めた検討を行う。すなわち、より週齢の早いOLETF ratにおける評価を併用して予防的効果を含めて検討し、研究を加速する。さらに、これまで実施してきた末梢血CBC・白血球分画、血清サイトカイン量の解析に加えて、活性化血小板数、凝固因子活性、骨代謝に関連するmiRNAの解析、アフェレーシス後の骨髄由来細胞の未分化性の解析等に評価項目を拡大する。 また、本研究の最終的な目的であるサイトアフェレーシス併用による慢性炎症下の体内環境の改善とMSCによる細胞治療の相乗効果、およびその機序を明らかにする。
|
次年度使用額が生じた理由 |
新型コロナウイルスの感染拡大により、動物実験を含めた研究活動が制限され、高額なモデル動物の購入費や各種受託解析にかかわる費用が当初の予定よりも減少したことで、次年度使用額が生じた。また、骨組織の受託解析に供することが可能な検体数が減少し、解析費用が減少した。これらの理由で、次年度使用額が発生した。 次年度については、2型糖尿病モデルラットを主たるモデルとして使用する。サイトアフェレーシスを長時間安定的に実施できる体外循環システムを確立するために購入する動物数が増加することから、動物購入費用として本年度の繰り越し分を使用する。また、各種骨髄由来細胞の形質解析を目的としたフローサイトメトリー用抗体、磁気ビーズを用いた分取関連装置および試薬、表面抗原・細胞内サイトカインの多種類同時解析、骨組織のマイクロCT解析等に、次年度分の研究費を使用予定である。 また、細胞治療に供するBM-MSCsについて、これまでの予備的検討にてラット骨髄由来MSCとヒト骨髄由来MSCでは細胞形態・形質が大きく異なることを明らかにしているため、ヒト骨髄由来MSCを複数ロット購入し、高血糖に伴う骨代謝異常に対する細胞治療の効果および有効性機序を明らかにしていく。
|