研究課題/領域番号 |
19K07873
|
研究機関 | 城西大学 |
研究代表者 |
岡崎 真理 城西大学, 薬学部, 教授 (50272901)
|
研究分担者 |
坂本 武史 城西大学, 薬学部, 教授 (20187040)
袁 博 城西大学, 薬学部, 准教授 (10328552)
玄 美燕 城西大学, 薬学部, 助手 (50711751)
岩田 直洋 城西大学, 薬学部, 助教 (50552759)
松崎 広和 城西大学, 薬学部, 助教 (80582238)
日比野 康英 城西大学, 薬学部, 教授 (10189805)
|
研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2023-03-31
|
キーワード | 虚血性脳血管障害 / フェルラ酸誘導体 / 予防的治療薬 / 脳血流維持作用 / 光血栓モデル / 微小血管内皮細胞 / 抗凝固作用 |
研究実績の概要 |
本研究は、発症前からの予防的投与によって脳梗塞発作時の脳保護にはたらく新たな予防的治療薬の開発を目的としている。当研究グループはこれまでに、フェルラ酸(FA)誘導体であるFAD012の慢性予防投与が、ナイロン栓糸を用いた中大脳動脈閉塞/再灌流モデルラットの脳血流低下を顕著に抑制し、梗塞巣形成を縮小することを見出しているが、その作用メカニズムの詳細は明らかではない。そこで、FAD012の虚血時脳血流維持作用に寄与する分子機構を検討することとした。 ラット脳微小血管内皮細胞を過酸化水素で処理し、酸化ストレス(擬似的虚血障害)を負荷して誘導した細胞死に対して、FAD012はFAと比較して顕著に強い細胞保護効果を示すことが明らかになった。FAD012は、過酸化水素によるネクローシス様細胞死と遅発性アポトーシス細胞死の両方を抑制し、その効果は、FAや脳保護薬であるエダラボンよりも強かった。FAD012は強い内皮細胞保護作用を有することから、脳虚血時の血管機能障害を抑制することで血流を維持し、脳保護効果にはたらく可能性が示された。 ラット光血栓性脳梗塞モデルにおいて、FAを予防投与すると、中大脳動脈へのレーザー光照射による脳血流量の低下が緩徐となり血栓の形成が遅延した。また、FAの投与により、血栓形成2~3時間後の脳血流量が回復し、24時間後の脳梗塞巣が縮小した。現在、光血栓性脳梗塞モデルにおけるFAD012の効果について検討を進めている。 フィブリン凝塊試験にて、FAおよびFAD012の血液凝固に対する作用を調べたところ、両化合物は有意な抗凝固作用を示すことを確認した。 以上の研究結果から、FAD012の予防投与は、脳血栓形成を抑制して脳梗塞発作を予防し、かつ発作時には血管内皮細胞を保護し、脳血流低下を抑制することによって脳保護効果を発揮する可能性が考えられる。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
4: 遅れている
理由
これまでの研究期間、FAD012に強い血管内皮細胞保護効果があることを実証するとともに、脳梗塞時の血流維持作用に加えて血栓形成抑制作用を有する可能性を明らかにしたが、おもに新型コロナウイルス感染症拡大の影響に起因した学生教育負担の増大に加え、研究に必要な物品の調達に障害が生じたことなどから、研究に遅れが生じている状況である。 FAD012によるeNOSの活性増大に関わる細胞内経路の検証については、FAD012によるスレオニン残基(Thr495)のリン酸化抑制が関与する可能性を示すデータを得ているが、明確ではない。現在、ラット脳微小血管内皮細胞を用いて、FAD012によるeNOS活性化に関わる経路の同定を阻害剤等を用いて進めている。 また、ラット血栓性脳梗塞モデルを用いた実験については、条件設定を完了し、FAD012の予防投与による脳血栓形成抑制効果および脳血流回復効果、および脳梗塞巣形成や脳浮腫、脳微小血管傷害の軽減効果について検討を始めている。さらに、t-PAを血栓形成後にタイミングを変えて投与し、FAD012の併用の有無によってt-PAがより遅い投与タイミングでも効果を示すか検証する。
|
今後の研究の推進方策 |
計画の遅れが生じている以下の二つの項目について、優先して進める。 ① FAD012によるeNOSの活性増大に関わる細胞内経路の同定:eNOSの活性化は、スレオニン残基(Thr495)とセリン残基(Ser1177)のリン酸化の調節によって制御されている。これに関わるリン酸化酵素には、Akt/PKBキナーゼ、Aキナーゼ、AMPキナーゼ、Cキナーゼなどが知られている。また、ROCK阻害はeNOS発現を増大させる。そこで、ラット脳微小血管内皮細胞を用いて、FAD012によるeNOS活性化に関わる経路を阻害剤等を用いて同定する。 ② ラット血栓性脳梗塞モデルを用いて、FAD012の予防投与による脳血栓形成抑制効果および脳血流回復効果、および虚脳梗塞巣形成や脳浮腫、脳微小血管傷害の軽減効果について検討する。さらに、t-PAを血栓形成後にタイミングを変えて投与し、FAD012の併用の有無によってt-PAがより遅い投与タイミングでも効果を示すか検証する。
|
次年度使用額が生じた理由 |
新型コロナウイルス感染症拡大の影響により、教育活動やその他の対応に時間がかかり、研究時間が不足したこと、また、研究に必要な物品の調達に障害が生じたことにより、研究に遅れが生じたため、研究期間を1年間延長した。 次年度は、計画の遅れが生じている上記①および②について、優先して進める。 次年度予算の使用計画:①の実験に必要な種々キナーゼ阻害薬および抗体、細胞培養に係る試薬、実験器具等、また、②の実験に必要なラット、手術器具、試薬等の購入に充てる予定である。
|