研究課題/領域番号 |
19K07876
|
研究機関 | 東海大学 |
研究代表者 |
曲 寧 東海大学, 医学部, 講師 (70527952)
|
研究分担者 |
伊藤 正裕 東京医科大学, 医学部, 主任教授 (00232471)
亀谷 美恵 東海大学, 医学部, 准教授 (50338787)
坂部 貢 東海大学, 医学部, 教授 (70162302)
善本 隆之 東京医科大学, 医学部, 教授 (80202406)
寺山 隼人 東海大学, 医学部, 准教授 (00384983) [辞退]
|
研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2023-03-31
|
キーワード | 精巣 / 抗がん剤投与 / 精子形成 / 漢方薬単独投与 / 漢方薬併用投与 |
研究実績の概要 |
昨年度までに男性不妊症治療において臨床的に有効性が確認されている漢方製剤の中からツムラ牛車腎気丸(TJ107)を選び、抗がん剤投与と放射線照射後のマウス精子形成障害に対してTJ107が有効な治療効果をもつことを証明した。さらに、抗がん剤投与および放射線照射後のマウスは異なった作用機序による精子形成が障害されたことが明らかになった。今年度は特発性男性不妊症についても有効である八味地黄丸と補中益気湯(TJ7・TJ41)を選び、抗がん剤の一種であるブスルファンによる精子形成障害を誘導したマウスに対して単独または併用投与して、治療効果を検討した。ブスルファン処置後の生殖細胞の障害にTJ7とTJ41合わせ処方を含有させた餌(:ヒト投薬量を体重換算して5倍を餌に含有)投与群では、精巣重量(0.10±0.01g) と精巣上体精子数 (19.87±2.61x105 cells)はともに有意に増加し、ノーマルマウスのレベルまでに回復した。一方、TJ7・TJ41含有させた餌(:ヒト投薬量を体重換算して5倍を餌に含有)単独投与群では、精子形成の改善効果が見出せなかった。また、精子形成に関連する免疫学的因子(Ki67, Fas, FasL, Caspase3, Caspase8, Caspase9, p53, F4/80, CD168, CD63, TNF-α, MCP-1, TLR2, TLR4)の発現を検討した。併用投与による治療は、単独投与の治療と比較して有意な効果を示した。ブスルファン投与後のマウス精子形成障害に対して、八味地黄丸と補中益気湯の併用投与は有効な治療効果をもつことが示唆された。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
抗がん治療の副作用対策としての漢方薬の効果について、科学的に検証した結果が報告されたが、抗がん治療後の精子形成障害については有効な治療効果を持つ漢方薬の報告はまだありません。本研究の目的は小児・若年がん患者の抗がん治療後の性腺機能不全に対する漢方薬の改善効果とその作用機序について明らかにする。我々の結果から、抗がん剤投与のマウス精子形成障害に対して、牛車腎気丸と八味地黄丸・補中益気湯が有効な治療効果を示すことを見出した。さらに八味地黄丸と補中益気湯の併用投与による精子形成改善作用機序への液性因子・精巣内細胞の関与を明らかにし、抗がん治療後の男性不妊症に対する漢方治療の学術的基盤を作ることが期待される。
|
今後の研究の推進方策 |
昨年度までに証明した精子形成改善に関連する液性因子と細胞因子以外に、精子形成に関連する精巣間質のライディッヒ細胞と精細管内のセルトリ細胞に対する抗癌治療の影響についても調べる。4週齡C57BL/6j雄マウスにブスルファン(40 mg/kg)を腹腔注射あるいは放射線6 Gy照射後、120日まで経時的に精巣からRNAを抽出し、生殖細胞やセルトリ細胞、ライディッヒ細胞の関連遺伝子(Germ cell: Tnp1, Spo11, Stra8; Sertoli cell: Amh, Aqp8, Cldn11, Clu, Ccnd2, Espn, Fyn, Inhba, Il1a, Rhox5, Testin, Sox9, Trf; Leydig cell: Hsd3b6, Star, Lhr, Pdgfa)について調べる。 また、精巣内マクロファージの関与が明らかになって、精子形成改善に関与している精巣内免疫環境の変化と精子形成の機構を解明するため、精巣間質マクロファージの除去による精子形成改善効果を調べる。 FACS解析により、マクロファージの細胞数が増えていれば、次にクロドロン酸リポソームの投与によりマクロファージを除去し、精子形成への影響を検討し、マクロファージの関与について明らかにする。
|
次年度使用額が生じた理由 |
漢方薬の抗がん治療による精子形成障害の改善効果を調べるため、八味地黄丸・補中益気湯含めた餌(ヒト投薬量を体重換算して1,3,5倍を餌に含有)を60日まで自由摂食させるのを予定していたが、昨年度の実験結果に参考したうえ、今年度は5倍餌のみを用いてブスルファン投与マウスの精子形成障害に実験した。また、漢方治療により形成されたマウス精子の妊性を調べるために、顕微授精を行う予定ですが、併用投与群マウスは自然交配により100%の出産が見られた。そのため、顕微授精用の精子採取・精子卵子の培養やマニピュレータなどの器具に使用予定の金額が抑えられたことも理由に挙げられる。 次年度から、抗癌治療による卵巣機能障害に対して漢方薬の改善効果を調べる。各週齢雌マウスにブスルファン投与あるいは放射線全身/局所照射単独投与後、ヒト投薬量を体重換算して1,3,5倍の牛車腎気丸餌による改善効果についても調べるため、未使用額はその経費に充てることとしたい。研究経費として令和3年度は総額1640千円の研究経費を計上した。実験動物のためのマウス代(食餌含)600千円として使用予定である。 また、消耗品として包埋剤・プラスチック・ガラス器具450千円、分子生物・生化学関連試薬および免疫・組織学関連試薬(抗体、ELISAやリアルタイムRT-PCR関連試薬、2次元電気泳動関連試薬)590千円として使用する予定である。
|