アルツハイマー病(AD)は進行性の認知症を呈する脳神経疾患であり、記憶障害や理解・判断力の低下などにより患者の生活の質は著しく低下する。ADの病理学的特徴である老人斑は、アミロイド前駆体タンパク質(APP)がβ、γ-セクレターゼによって切断され生じるβアミロイド(Aβ)の蓄積により形成される。ところで、生体のタンパク質の多くは糖鎖を有している。糖鎖はタンパク質の性質や分子間相互作用に大きく影響するため、糖鎖の異常が様々な疾患の原因となることが示されている。APPにはN型糖鎖が2ヶ所、O型糖鎖が10ヶ所以上に結合しており、これらの糖鎖がAPP代謝に深く関与している可能性が報告されているが、詳細についてはほとんど分かっていない。研究代表者はAD患者脳では健常脳と比較してO型糖鎖合成開始酵素ファミリーppGalNAcTの発現が異なることや、APP上のO型糖鎖の変化によって代謝が変動し、βアミロイド(Aβ)産生に影響することを見いだしている。そこで本研究では、Aβ産生を減少させる効果の見られたppGalNAcT6について研究を行った。本年度は昨年度に引き続き、O型糖鎖修飾の増加がAβ産生を減少させるメカニズムについて検討する目的で、ppGalNAcT6-APP共発現細胞を用いてAPPの細胞内局在を解析した。また、Aβ産生を減少させることによりアルツハイマー病に対して予防的に働くAPP変異(Icelandic変異)はAlaがThrに置換される変異であり、このThrが新たなO型糖鎖修飾部位となっている可能性が考えられるため、この変異型APPを発現する培養細胞を作成し、こちらについてもAPPの細胞内局在を解析した。また、大量発現系を確立し、精製し糖鎖修飾について解析を進めている。そのほか、自然老化によってppGalNAcTの発現変化が生じることも明らかにした。
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