高血圧は高齢者において最も頻度の高い疾病であるが、患者個々のADLやQOL、認知機能などを勘案したオーダーメイドな治療方針の決定が求められている。この際に心血管イベント発症予防の観点のみならず認知機能障害やフレイルなど老年症候群の発症・進展に影響を及ぼす血圧管理レベルを考慮することが重要であると考えられつつある。さらに高齢者の血圧は血管硬化や自律神経機能低下の影響で短・長期的な変動が増すことが知られているが、このような血圧変動が老年症候群に与える影響については十分には検討されていない。 そこで本研究は、90歳以上の超高齢者を含む地域在住一般住民高齢者ならびにすでに要介護状態にある在宅医療受療中の身体機能、認知機能の低下した虚弱高齢者を対象に、縦断的な解析により高齢期の血圧変動と老年症候群との関連とその機序を明らかにすることで、今後求められるエビデンスに基づく高齢者血圧管理法の確立に貢献するデータを創出することを目指した。本研究で家庭血圧の日内変動は超高齢期高齢者の認知機能と負の相関を示した。高齢者では白衣高血圧や白衣現象を起こしやすいことが知られている。さらに起立時や食後の血圧低下、さらには診察ごとの受診間血圧変動など血圧変動が非常に多く認められる。また高齢者では、降圧薬開始後45日程度の時期に骨折を起こしやすいことが大規模な観察研究で明らかとなっている。おそらくこれも降圧効果が表れてきた時期に過度の降圧などのためにふらつきから転倒、骨折に至った例が多いことが予測される。これらの血圧変動をとらえるためにも後期高齢者・超高齢者を含めた高齢者において家庭血圧測定を推奨することが重要と思われる。CVD発症のみならず、老年症候群の発症や進展予防の観点からも可能な限り家庭血圧計を用いた血圧管理を高齢者では行うことが望ましいと考えている。
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