研究課題/領域番号 |
19K07899
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研究機関 | 東京慈恵会医科大学 |
研究代表者 |
高田 耕司 東京慈恵会医科大学, 医学部, 教授 (30179452)
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研究分担者 |
松浦 知和 東京慈恵会医科大学, 医学部, 教授 (30199749)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | ユビキチン / ポリユビキチン鎖 / 老化 / 細胞老化 / 加齢性疾患 / プロテアソーム |
研究実績の概要 |
ユビキチン-プロテアソーム系やオートファジー系は、不要タンパク質の合目的分解によって細胞内タンパク質の恒常性(プロテオスタシス)を維持し、数々の生命現象を駆動する。近年、加齢性疾患(糖尿病性腎症、慢性閉塞性肺疾患等多数)発症の一因として、老化に伴うプロテアソームとオートファジーの活性低下を背景としたプロテオスタシスの破綻が指摘されている。そのため、個々の患者でこのような細胞内タンパク分解系の状態を随時モニターすることができれば、加齢性疾患を含む老化による健康障害の予防・治療・予後管理に有用と推定されるが、実用的な検査法はまだ確立されていない。そこで我々は、プロテアソームとオートファジーに共通する基質分子であり、両者の疲弊に伴って増加・蓄積するユビキチン化タンパク質に着目し、同タンパク質に共有結合した修飾分子「ポリユビキチン鎖」が有用な医学的老化マーカーとなるか検討を進めている。 本年度は細胞老化と細胞内ポリユビキチン量の関係を解析するため、ヒストンH4のリジン20のメチル化を触媒するメチル基転移酵素SETD8阻害による細胞老化の誘導現象(Tanaka et al. Cell Reports 18; 2148-61, 2017)を利用し、ヒト表皮角化細胞由来HaCaT細胞を用いたモデル実験系での検証を行った。その結果、細胞老化に伴ってHaCaT細胞のプロテアソーム活性は有意に低下し、ポリユビキチン鎖の含有量は有意に増加することが確認された。これらの知見は細胞老化によるプロテオスタシスの乱れを反映したものと考えられ、細胞内現象にもとづく老化評価としてのポリユビキチン鎖定量系の妥当性を支持するものである。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
細胞老化による「ポリユビキチン鎖の量的変動」の解析には、メチル基転移酵素SETD8阻害による細胞老化モデル実験系(Tanaka et al. Cell Reports 18; 2148-61, 2017)を用いた。すなわち、ヒト表皮角化細胞由来HaCaT細胞をSETD8阻害剤UNC0379存在下で6日間培養したところ、阻害剤(10μM)曝露群においてSA-β-gal活性が亢進し、細胞老化の誘導が確認された。これらの細胞から抽出液を調製し、基質suc-Leu-Leu-Val-Tyr-MCAを用いたプロテアソーム活性を測定したところ、細胞老化に伴う有意な低下を認めた。また、同細胞から1% Triton X-100で可溶化した易溶性画分とTriton不溶成分を1% SDSで抽出した難溶性画分を調製し、独自のELISA測定系(Takada et al. Eur J Biochem 233: 42-7, 1995)でポリユビキチン鎖を定量したところ、両画分のポリユビキチン鎖含量は細胞老化に伴って有意に増加した。 各型ポリユビキチン鎖(K48型鎖,K64型鎖,M1型鎖)に特異的な測定系の構築に関しては、適切な抗体の選別と条件設定を進めている。
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今後の研究の推進方策 |
各型ポリユビキチン鎖(K48型鎖,K64型鎖,M1型鎖)を対象とした新規測定系の開発には、高度の親和性・特異性を有する抗体(またはアプタマー)が必要であるため、内外の試薬メーカーおよび研究機関の動向を注視し、より多くの試薬の入手と選別を進める。 SETD8阻害による細胞老化モデル実験系を用いた2019年度の研究成果は、本研究の基本方針と老化マーカーとしての「ポリユビキチン鎖」の意義を支持するものであるが、阻害剤の副次的作用である可能性も現時点において完全には否定し得ない。そのため、ヒト正常二倍体細胞の継代培養および老化促進マウスを用いた実験系での検証を開始する。 ヒト由来の各種検体(血液、爪、毛髪等)を用いた研究に関しては、COVID-19感染症の影響に配慮した研究計画を倫理委員会に提出し、その承認後、臨床検査の残存検体と複数の青年~高齢者ボランティアから得た各種検体を対象としたポリユビキチン各鎖の定量解析を実施する。その際、細胞、爪、毛髪等の固形成分を含む試料については、難溶性ポリユビキチン化タンパク質を適切に可溶化する必要があるため、各種の溶媒と界面活性剤の組合せのもと、ビーズ破砕機を用いた条件設定の検討を行う。
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次年度使用額が生じた理由 |
本研究の一部を担う人員の都合により、研究項目の実施時期を入れ替え、経費を要する動物実験や高額な試薬を必要とする実験の開始を次年度に延期したため、それらの経費を次年度に持ち越した。また、当初予定していたクリーンベンチの附属消耗品「へパフィルター」の購入と交換に関しても使用中のフィルター性能の劣化が許容範囲に留まり、経過観察との判断に至ったため、その費用も次年度以降に充てることとした。これらの繰越額を含む2020年度の予算においては、比較的高額な実験動物、細胞株および抗体等の消耗品の購入を計画している。また、現在使用中のパソコンも耐用年数の限界に近づいているため、データ解析用のパソコンとソフトウェアの購入も予定している。
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