研究課題/領域番号 |
19K07905
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研究機関 | 独立行政法人国立病院機構(京都医療センター臨床研究センター) |
研究代表者 |
山陰 一 独立行政法人国立病院機構(京都医療センター臨床研究センター), 内分泌代謝高血圧研究部, 主任研究員 (40598900)
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研究分担者 |
浅原 哲子 (佐藤哲子) 独立行政法人国立病院機構(京都医療センター臨床研究センター), 内分泌代謝高血圧研究部, 研究部長 (80373512)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | TREM2 / 脳心腎連関 / 単球・ミクログリア / 糖尿病 / 肥満 / 早期予知バイオマーカー / 治療戦略 |
研究実績の概要 |
申請者はマウス骨髄でのマイクロアレイから、糖尿病・肥満の骨髄単球にて発現亢進する遺伝子・TREM2を新規に同定した。本研究では、本研究では、糖尿病・肥満に伴う脳心腎連関進展における単球-Mφ-ミクログリア機能(M1/M2比)と発現するTREM2の病態意義を解明する為、国立病院機構多施設共同糖尿病・肥満症コホート(JOMS/J-DOS2)を構築し、横断解析にて糖尿病患者の血中sTREM2高値が認知機能低下(MMSE↓)と関連することを見出した(Diabetes Metab 2019)。また、久山町研究との共同研究にて、一般住民において血中sTREM2濃度と10年後の認知症発症との有意な関連を認め、血中sTREM2が認知症の新規予知バイオマーカーとなる事を示した(Annals of Neurology 2019)。現在、JOMS/J-DOS2コホートの糖尿病患者において、横断解析よりsTREM2は高血圧合併、HbA1c、hsCRPと正相関を有し、逆に肥満合併は認知機能悪化の要因となる可能性、また縦断解析にてsTREM2の有意な上昇を認め、初期sTRME2高値がMMSE低下と相関する傾向を認めた。また、糖尿病症例において血中sTREM2と動脈硬化指標や腎機能悪化との関連を認め(vs. eGFR: beta = -0.18, P<0.01)、単球機能(M1/M2極性・TREM2発現)による腎障害進展機序を検討している。さらに、糖尿病患者におけるSGLT2阻害薬による腎機能改善効果を報告した(Intern Med 2019)。認知症マウスにて、抗酸化作用を有するフラボノイド・タキシフォリン投与により、海馬のTREM2発現抑制による脳内炎症の低下、脳内血流量の改善や脳内Aβ量の減少を認め、認知機能が改善することを明らかにした(Proc Natl Acad Sci U S A 2019)。現在、TREM2欠損マウスを作製し、脳心腎連関におけるTREM2・M1/M2極性の意義を検討している。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本年度は、単球・ミクログリア機能に着目した生活習慣病の脳心腎連関について、特に脳合併症「認知症」を中心に検討し、認知症に対するsTREM2の病態意義等英文誌を多数発表し、順調に研究計画が進展している。 1.臨床研究:1)NHO多施設研究 糖尿病・肥満症コホート(JOMS/J-DOS2)を構築し(1937例登録完了)、現在3~5年目の脳心腎連関アウトカム(複合心血管イベント、心腎合併症、認知機能)を追跡調査中である。2)横断解析にて非肥満型糖尿病患者でのsTREM2とインスリン抵抗性との関連を報告し(Diabetes Metab 2019)、sTREM2と高血圧合併、HbA1c、hsCRPとの関連、肥満合併は逆に認知機能悪化抑制する事を見出した。3)縦断解析(2年追跡)ではsTREM2の経年的上昇や初期のsTRME2高値のMMSE低下と相関傾向を認めた。4)九大・久山町研究との共同研究では一般住民にてsTREM2とインスリン抵抗性との関連を示し(Diabetes Res Clin Pract 2018)、またsTREM2と10年後の認知症発症との有意な関連を認め、血中sTREM2が認知症の新規予知指標となる事を示した(Ann Neurol 2019)。5)腎機能に関しては、血中sTREM2と動脈硬化や腎機能悪化との関連を認め、現在、TREM2による腎障害進展機序を検討している。糖尿病患者にではSGLT2阻害薬による腎機能改善効果を報告した(Intern Med 2019)。 2.基礎研究:タキシフォリンにより、認知症マウスでの海馬TREM2発現抑制による脳内炎症低下や認知機能が改善作用を解明した(Proc Natl Acad Sci USA 2019)。 以上本研究より、TREM2抑制による認知症予防効果を証明し、TREM2の予知指標・治療標的としての有用性が示され、脳心腎連関を検討中である。
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今後の研究の推進方策 |
本研究にて是まで、脳心腎連関の中でも、特に脳合併症「認知機能」を中心に、一般住民並びに糖尿病・肥満症コホートにおける新規認知症予知指標並びに認知症治療標的としてのsTREM2の有用性を報告してきた。今後さらに、下記臨床・基礎研究にて糖尿病・肥満症に伴う脳心腎連関進展機序の解明と治療戦略の確立を目指す。 1.臨床研究: NHO糖尿病・肥満症コホートの多施設データの1年毎追跡(3-5年後)、縦断解析を推進し、生活習慣病における脳心腎連関アウトカムに対する単球機能・sTREM2や糖脂質代謝・血圧・炎症指標等の関連、最も影響する規定因子の同定、薬物治療別・肥満の有無別等のサブ解析を行い、糖尿病・肥満症に伴う脳心腎連関進展機序・予知指標の同定を行う。同時に、是まで未解明の肥満の認知症への影響(促進因子か抑制因子か)を解明に向け、肥満症の単球M1/M2比・sTREM2の関連解析も行う。 2.基礎研究:これまでの成果を元に、作製済であるTREM2 欠損マウス、肥満・糖尿病及び腎不全モデルマウスを用い、下記の単球M1/M2極性・TREM2の病態意義の検討により、肥満・糖尿病に伴う脳心腎連関進展の分子機構を解明する。A)M1/M2極性・TREM2の病態意義:TREM2 KO、db/dbマウスに高脂肪食負荷を行い、体組成、糖代謝、単球機能、血中sTREM2と脳、心臓、腎臓の炎症や組織傷害レベルとの関連を検討する。B)TREM2欠損マウスや肥満・糖尿病マウス及びマクロファージ・ミクログリアや腎細胞株を用いて、生活習慣病薬・機能性食品などの脳心腎障害に及ぼす影響とその作用機序・シグナルとTREM2の関与を明らかにする。 以上より、糖尿病・肥満に伴う脳心腎連関進展におけるTREM2の新規病態意義を明らかにし、脳心腎連関の新規予知指標・治療標的として血清sTREM2の測定意義の確立を目指す。
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次年度使用額が生じた理由 |
2019年12月より推進している基礎研究において、一部実験資材についてCOVID-19の影響による納品遅延などがあり、請求が年度を跨いだため。 次年度使用計画:消耗品(ホルモン測定、分子製粒額関連試薬、実験用動物)660千円、旅費100千円、人件費400千円、その他100千円。合計1260千円。
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