経口摂取されたグルコースは小腸で吸収された後、門脈を経て肝臓に流入し、その一部が肝細胞に取込まれグリコーゲンとして蓄積される。肝グリコーゲン蓄積には追加分泌されたインスリンと肝臓におけるインスリン作用が必要である。 我々は安定同位体で標識されたブドウ糖(13C-glucose)を経口摂取後の呼気ガス分析(13Cグルコース呼気試験)を用いて、ブドウ糖負荷後の生体における糖利用の評価を試みた。経口摂取されたブドウ糖が肝グリコーゲンとして蓄積されるとCO2は生じないが、生体内で酸化的に代謝されるとCO2が生じる。グルコース経口摂取後はこのことが同時に生じており、そのバランスによって呼気中CO2レベルが決まる。健常成人18名に対して15gのブドウ糖液(tracerとして13Cブドウ糖を含む)を経口投与し、30分毎に採血と呼気収集を行った。1)投与後の血中グルコース値の変化は全身の糖利用の指標、2)呼気13CO2の変化は全身の糖酸化指標、3)血中インスリンとCペプチドの比率(肝インスリンクリアランス)は肝インスリン作用の指標となると考え、それらの相互関係から各個体の肝グリコーゲン蓄積能を推定できるかどうか検討した。 ブドウ糖投与30分後に血中グルコース値はピーク値となった。インスリンは30分後、Cペプチドは45分後、呼気13CO2は120分後にピーク値となった。肝インスリンクリアランス増加は、投与早期のの血糖変化と呼気CO2変化と負の相関を認めた。これらの結果は、ブドウ糖投与早期に肝臓にインスリン作用がはたらけば(肝グリコーゲン蓄積)、生体におけるブドウ糖酸化は相対的に減少することを示唆した。糖尿病前状態における肝臓のインスリン作用不足は、ブドウ糖が肝臓でクリアランスされず「食後高血糖」となりうる。したがって、本研究で実施したブドウ糖呼気試験は早期の糖代謝異常を検出しうる可能性がある。
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