研究課題
アルツハイマー病の主たる病理所見は、高度にリン酸化し、重合したタウ蛋白から形成される神経原線維変化(NFT)である。NFTの前段階のタウオリゴマーはシナプス変性、記憶障害をきたす。 Zn, Cu, Fe, Mgなどは生体必須微量元素(バイオメタル)であるが、NFTにZn2+を含むバイオメタルが蓄積するとタウのリン酸化・重合を促進する可能性が示唆されている。抗アメーバ薬クリオキノール(CQ)はキレート薬としてZn2+ やCu2+に選択的に結合し、血液脳関門を通過する。CQがタウ蛋白のリン酸化、およびタウオリゴマー形成に及ぼす影響につきTet Off誘導系により野生型タウ(4R0N)を発現する神経系細胞を用いてWestern blot(WB)法、および免疫組織学法により検討した。まず2μMのCQによりタウを発現させた細胞内のCu+が著しく減少した。さらに1~5μMのCQの投与により、総タウ、およびリン酸化タウが容量依存性に減少していた。画分法ではNFTの形成に重要なサルコシル不溶性画分のタウが著しく減少するとともに、オリゴマータウの減少も示された。タウのリン酸化酵素JNK、およびP38MAPキナーゼ活性の低下が示された。さらに脱リン酸化酵素PP2Aの活性化も示された。ユビキチン化タウ、およびP62の減少、LC3IIの割合の増加が示され、CQによるプロテアソーム・オートファジーの活性化が示唆された。ATPアッセーを用いた検討では明らかな細胞毒性はみられなかった。以上の結果から、CQはタウ蛋白のリン酸化酵素JNK、P38MAPキナーゼを不活性化することによりリン酸化タウを減少させること、プロテアソーム、オートファジーを活性化することによりタウオリゴマー、およびサルコシル不溶性画分の線維化したタウを減少させることが明らかとなった。キレート剤はAD治療へ応用できる可能性が示唆された。
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