研究課題/領域番号 |
19K07927
|
研究機関 | 健康科学大学 |
研究代表者 |
田中 将志 健康科学大学, 健康科学部, 講師 (60381167)
|
研究分担者 |
浅原 哲子 (佐藤哲子) 独立行政法人国立病院機構(京都医療センター臨床研究センター), 内分泌代謝高血圧研究部, 研究部長 (80373512)
猪原 匡史 国立研究開発法人国立循環器病研究センター, 病院, 部長 (00372590)
|
研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2022-03-31
|
キーワード | TREM2 / 肥満 / 糖尿病 / 単球 / ミクログリア / 炎症 / 血管合併症 / 認知症 |
研究実績の概要 |
初年度は、認知症の原因となる脳アミロイド血管症のモデルマウスにて、脳ではミクログリアに発現する分子・Triggering receptor expressed on myeloid cells 2(TREM2)の発現レベルが、病態の進展に伴い亢進することを見出した。さらに、植物由来生理活性分子・タキシフォリンの経口投与により、脳内アミロイドβや酸化ストレスの減少に加え、TREM2陽性ミクログリアの減少とともに脳内炎症が抑制されることを認めた。タキシフォリンのこうした多面的な神経保護作用が認知機能低下の抑制に寄与する可能性を初めて明らかにした(Proc Natl Acad Sci U S A 2019)。抗炎症作用が示唆される生理活性分子の機能とその作用機序の検討から、ペプチドホルモン・オキシトシンは、活性化ミクログリアに対し、eIF-2-ATF4経路を抑制することで抗炎症作用を発揮することも見出した(Cells 2019)。 糖尿病は認知機能低下に密接に関連することが報告されているが、肥満症・糖尿病コホートを基盤とした介入研究から、糖尿病治療薬・SGLT2阻害薬について、糖尿病患者の筋肉量減少抑制や腎機能保護における新たな臨床的意義も明らかにした(J Diabetes Investig 2020; Intern Med 2020)。 さらに、脳アミロイド血管症やアルツハイマー病の新規予知指標・治療戦略の開発において、タキシフォリンを始めとする生理活性分子やTREM2が、新たな機能的意義・臨床的意義を有する可能性を提唱した(Int J Mol Sci 2019; 2020)。 今後、これらの知見に立脚し、肥満・糖尿病に伴う認知機能低下におけるTREM2の病態意義を解明するとともに、認知機能低下の抑制に寄与する可能性がある生理活性分子の作用・機序の詳細を検討予定である。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
1. 初年度は、認知機能低下の原因となる脳アミロイド血管症モデルマウスの検討から、脳内TREM2発現レベル上昇は脳内炎症亢進と関連することを見出した。さらに、タキシフォリンの経口投与によって、脳内アミロイドβ、活性酸素やグルタミン酸レベルが減少すること、TREM2陽性ミクログリアの集積抑制とともに、脳内炎症レベルも抑制されることを認めた。タキシフォリンによるこのような多面的な神経保護作用が、認知機能低下の抑制に寄与することを明らかにした(Proc Natl Acad Sci U S A 2019)。また、活性化ミクログリアの検討から、オキシトシンによる新規抗炎症作用とその機序を明らかにした(Cells 2019)。本成果に立脚し、現在、ミクログリアの質的改善作用を有する可能性のある生理活性分子の作用と機序について、分子レベルからの検討に着手している。 2. 肥満症・糖尿病コホートを基盤に、糖尿病患者を対象とした介入研究から、糖尿病治療薬・SGLT2阻害薬は、筋肉量減少の抑制や腎保護に寄与することを明らかにした(J Diabetes Investig 2020; Intern Med 2020)。現在、糖尿病患者における臨床指標(糖代謝や認知機能)と血清TREM2レベルとの関連について、さらに詳細な検討に取り掛かりつつある。
|
今後の研究の推進方策 |
初年度の研究成果に立脚し、次年度は、ミクログリアの質的改善作用を有する可能性のある生理活性分子(タキシフォリン等)に焦点を当て、活性化ミクログリアに対する作用とその機序について、分子レベルから検討する(関連シグナル分子の同定やその活性化レベル等)。モデルマウス(肥満・糖尿病、認知症)やTREM2欠損マウスを用いた検討も施行し、認知機能低下の抑制に寄与する生理活性分子を明らかにする予定である。 肥満症・糖尿病コホートの糖尿病患者を対象とした縦断解析から、糖尿病における臨床指標(糖代謝や認知機能等)と血清TREM2レベルとの関連を検討することで、TREM2の新たな臨床的意義を明らかにする。さらに、肥満・糖尿病モデルマウスやTREM2欠損マウスを用い、肥満・糖尿病に伴う脂肪組織リモデリングと脳内炎症等との関連についても検討することで、TREM2の新規病態意義を解明する予定である。 以上、肥満・糖尿病に伴う認知機能低下について、抑制作用を有する新規生理活性分子の同定や、TREM2の病態生理学的意義を明らかにすることで、肥満・糖尿病に伴う認知機能低下抑制のための新規評価系・治療戦略の開発を目指す。
|
次年度使用額が生じた理由 |
本研究計画におけるTREM2欠損マウスの脂肪細胞について、その性状等を詳細に検討しているため時間がかかり、次年度使用額が発生した。次年度には当該使用額も含め、研究計画にのっとって研究費を使用し、研究を推進する予定である。
|